多文化の視点

佐々木イザベルさん
(観光ガイド、空手道場運営)

大船渡の自然と人に魅せられ、復興を見届けたい一心で移住

パリから車で約1時間、人口8,000人ほどの田舎町ナンジで生まれた私が日本と出合ったきっかけは、6歳のときに通い始めた空手道場でした。空手を通してサムライ、キモノといった日本独自の文化にも興味を持ち始め、日本との交換留学制度のあるビジネススクールを選んで進学。学生時代には念願だった1年間の語学留学を経験しました。

古都京都での学生生活はとても楽しかったのですが、留学生専用の寮に住んだため、日本語よりも英語の方が上達してしまったのは計算外。また、たった1年では日本の社会や文化を理解するには時間が足りないと感じ、卒業後に再び来日し、日本での就職を目指したのでした。

日本で働き始めて6年後の2011年3月、東日本大震災が起こりました。

毎日テレビに映し出される被災地の様子を見るうち、たまらずアメリカのボランティア団体All Handsに参加。ゴールデンウイークを利用して向かったのは大船渡で、自然のとんでもない力が及ぼした街の姿に言葉を失ったのを覚えています。

その後、ちょうど仕事の契約期間が切れた8~11月には長期滞在して瓦礫の撤去などを手伝いました。その間に大船渡の人たちと仲良くなり、次の仕事が決まってからも高速バスで年に4回程度訪れ、そのたびに「また会いに来ます」と約束。東京に帰るときはいつも大船渡の人たちとの別れがつらくて泣けてきたものでした。

震災直後から大船渡の海はとても美しく、人はぼろぼろになりながらも優しさを失っていませんでした。そんな大船渡がこれからどうなっていくのか、自分もその復興に関わりたい! という気持ちがどうしようもなく高まり、2019年、とうとう移住することを決めたのです。

幸いなことに、その年の5月から大船渡市職員として「地域おこし協力隊」の活動に従事することができ、現在も、観光を通じて大船渡の復興に貢献する事業に携わっています。今は、漁師である夫の協力も得て、ホタテ養殖見学クルーズを企画。また、みちのく潮風トレイルのガイドもしています。おすすめは、夏虫山と今出山から見るリアス式海岸。特につつじが満開になる頃の眺めはたとえようがありません。

大船渡ではどこに行っても親切にされ、日本に恩返しをしたいとやってきたはずなのに「これでは逆だ」と感じることばかり。昨年の初夏からは、閉所となった三陸鉄道の「三陸」駅併設の施設を借り、地元民が留守番をしながらカフェを営業する「ニューオキライ」も始めました。三陸を訪れる観光客と大船渡の人たちの接点になればいいなと考えています。

(取材・文/井上雅惠 写真/夛留見彩)

Profile

佐々木イザベル●フランス・ナンジ出身。6歳で始めた空手を通して日本に興味を持ち、大学時代に1年間、京都に留学。卒業後に再来日して東京の企業に就職。東日本大震災のボランティアをきっかけに岩手県大船渡市をたびたび訪れ、2019年に移住。翌年に市内在住の日本人男性と結婚。ホタテの養殖に携わる夫を手伝いながら、空手道場を運営し、観光ガイドとしても活躍。