令和6年秋 褒章受章者インタビュー

自分の力、ホテルの力を信じ続けてほしい

黄綬褒章 業務精励(ホテル業務)

山本 誠さん

(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド
グランドプリンスホテル高輪エグゼクティブアドバイザー
(元・プリンスホテル執行役員、グランドプリンスホテル高輪総支配人)

──褒章受章おめでとうございます。初めにどのようなことを思われましたか。

私でいいのかな、というのが本当の気持ちでした。もちろん、うれしさも込み上げてきましたが、自分以上に家族に喜んでもらえたことがうれしかったですね。海外で暮らしている長女から贈られた言葉があるんです。──長年勤めた功労が讃えられるなんて素晴らしい。コツコツ積み上げることの大切さを、お父さんの人生が物語っていると思います──。

さしたる取り柄もない私ですが、強いていえば粘り強さと持久力が持ち味で。それを家族もよくわかっていて認めてくれたんだなと、娘のメッセージを読んで思いました。本当にうれしかった。

──高輪プリンスホテルを出発点に、宴会サービスの拡大に寄与されました。

ありがとうございます。ただ、入社したときの希望部署は宴会ではなく、宿泊部門でした。1970年代の半ば、新しいプリンスホテルが次々にオープンしていくのを見て、その世界の一員になることを夢見てここで働く道を選びました。中高生の頃、夏休みに友人の家族が下田や苗場のプリンスホテルで過ごすのが羨ましくてホテルの仕事に憧れたのですが、宿泊部門がその象徴のように思えたのでしょう。

結局、最後まで宿泊の仕事に就くことはなく、自分には向いていないと思っていた宴会セールスの道を歩み続けることになりました。そこで今、私が思うのは、自分の本当の適性や能力というのは、自分よりも他人のほうがよく見えているものだということです。翻って、自分に与えられた仕事は、たとえそのときは納得できなくても、まずはやってみる、続けてみることが大切なのだと思います。ホテルに長く勤めた身として、若い人たちに一番伝えたいことはそれです。

──自分の持ち場で精いっぱいの努力をする。想い出に残るご経験はありますか。

プリンスホテルは品川・高輪エリアを中心に大きな宴会場をいくつも備えておりまして、2010年頃には現在でいうところの「グローバルMICE」へとつながる国際会議やイベント、大宴会などを開催できる一大拠点を形成しました。その端緒となったのが、1990年にグランドプリンスホテル新高輪にオープンした国際館パミールです。私はそのこけら落としに開催されたIOC国際オリンピック委員会総会での宴会運営に携わらせていただき、貴重な経験を積むことができました。

そのときのIOC総会には確か80カ国ほどから関係者が出席され、食文化の違いや宗教上の制約などさまざまな条件がある中で、いかにして滞りなく大宴会を運営し、お客様にご満足いただくか、多くのことを学ぶことができました。そうしたホテルスタッフ個々の経験知の積み重ねが、例えば2023年5月、広島サミット本会議の会場となったグランドプリンスホテル広島での成果を生み出したように、ホテルの財産となっていくのだと思います。

──2010年にドイツで開催されたMICE専門見本市では大きな成果を挙げられました。

「IMEX」というMICEに特化した欧州最大規模の展示商談会がフランクフルトで開かれて、宴会セールスの責任者として出張することになりました。すると、私どもの出展ブースを訪ねてくれた海外のある大手エージェントから、保険会社の大規模な報奨イベントを東京で開きたいとお声が掛かり、その場で1200名もの大宴会を受注することができたのです。MICEの本場といえば、マイアミ、ラスベガス、シンガポールといった定番がある中で、東京でも十分に役目を果たせることを証明できたと、誇らしい気持ちになったのを覚えています。

──そうしたお仕事の醍醐味について、どのように感じておられますか。

ホテルの宴会というのは、すべてがオーダーメイドで完成していく商品です。宴会の種類や目的、規模、予算、その他のご要望に応じて個別につくり上げていかなければなりません。それには宴会部門だけでなく、ホテル内のさまざまな部署の協力が必要で、外部の協力会社との連携も不可欠です。会議も多く、開催までのリードタイムも長い。それらの全体を取りまとめ、ある意味でハブのような役割を務めながら当日を迎え、無事に終えたときの達成感は格別なものがあります。一人でできることには限りがある。でも、大勢が力を合わせればどんなこともできる。そんなふうに感じられる仕事です。

──後進の方々に向けてメッセージをお願いします。

ホテルのサービスは人と人との接点から生まれるものです。人手不足が深刻化し、業務の効率化が求められる時代ですから、デジタル技術による改革も進んでいくでしょう。ですが、お客様がホテルに求めるものは変わりません。心地よく、幸せな時間をここで過ごしたい。そのために必要なサービスとはどのようなものか。人間味のある言葉や心のふれあいから生まれる力を信じ続けてほしいですね。

撮影/島崎信一
(2024 10/11/12 Vol. 749)