黄綬褒章 業務精励(ホテル業務)
山口 孝雄さん
(株)リーガロイヤルホテル広島
料飲部料飲統括課
(元・宴会部宴会サービス課チーフ)
──このたびはおめでとうございます。2015年の国土交通大臣表彰に続く栄誉ですね。
ありがとうございます。まさか褒章までいただけるとは夢にも思っていませんでした。これまで地道に歩んできたことの成果だと、妻にも喜んでもらえてよかったです。驚いたのは、いつも懇意にしてくださる常連のお客様が新聞報道を見て訪ねてきてくださったこと。あのときは胸を打たれました。
──ご入社は47年前とのこと。ホテルを職場に選んだ理由をお聞かせください。
東京で電子工学を学びまして、高圧電気工事技術者やボイラー技士、消防設備士といった資格をいくつか取得したものですから、学校を出て広島に戻ってから、そうした技術を生かせる場としてホテルを選びました。空調機やボイラー、冷蔵冷凍機などホテルには多種多様な設備機器がありますので、そうしたものの保守・点検、修理もホテル従業員の大事な仕事なんですね。実際、入社と同時に管理部技術課に配属され、希望どおりに働くことができました。
──10年ほどで今度は営業部付営業サービスの業務に就かれますね。戸惑いなどはありませんでしたか。
いえ、まったく。いろいろな仕事が経験できることも、ホテルで働く楽しみの一つです。それに私の場合、ダブルジョブで、客室業務と宴会業務を掛け持ちでやらせてもらっていました。朝から夕方までは客室の設備関係を点検して回り、夕方からは宴会サービスのキャプテンとして運営や接客を担当しました。目の回るような忙しさでしたが、むしろ楽しんで、やりがいを感じていたように記憶しています。
──設備機器を点検して、問題があればその場でご自分が修理してしまうという才能を発揮されたと聞いています。
そう言われると照れますね。実はとっくに定年を迎えた今でも、料飲統括課の嘱託スタッフとして働きながら備品の修理・修繕を担当して、みんなからは「山口工務店」なんて呼ばれていますよ。普段の仕事を通じて、こうすればもっと使いやすくなるし、効率も上がるといったことが目につくんですね。それで自分でやってしまう。
例えば、クロークでお客様から荷物を預かるときに使うクローク札。使わないときは2つの札にいちいち紐を通して結んでいたので、クリップでパッと挟めるように改良しました。宴会用のリネン回収ワゴンも狭い通路には不向きで、汚れやすいのが気になって、使わなくなったけどまだ使える備品に手を加えて再利用したら、大容量なのに小回りが利いて格段に使い勝手がよくなった。現場に喜ばれたので7台も作ってしまいました。
他にも、宴会場で使う大きな吊り看板を簡単に張れるようなバーをつくり、それまで1時間かかっていた工程を15分に短縮したり、重量のある中華料理用の円卓を転がしながら移動して、そのままスライド式に台車に積めるよう改善したり。この作業はそれまで1脚ずつ台車に積み上げていたので重労働でしたが、女性でも安全にできるようになったと好評でした。まだまだあって、枚挙にいとまがありません。
──素晴らしい創意工夫ですね。一方で、接客でも心がけていることがあると伺いました。
やはりホテルで働くことのいちばんの魅力といえば、お客様と接することだと思っていますので、できるだけこちらから声かけをして、会話が生まれるようにしています。「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」だけで終わったのでは、なんだか淋しいですね。もちろん、それ以上を求めないお客様もいらっしゃるので臨機応変ですが、コミュニケーションは大切にしたいと思って過ごしてきました。そうすると、お客様のほうからお声をかけてくださることもある。うれしいですよね。
──これまでのご経験を踏まえて、若い世代にエールをお願いします。
業務改善という意味では、定期的なミーティングなどの場を利用して、自分たちが仕事をしていてやりにくさを感じることや、非効率だと思うことを出し合って、どうしたら変えられるかを考えてほしいですね。一人の発想には限度がありますから、みんなでアイデアを出す。できることはたくさんあると思います。
そしてやはり、お客様との交流を楽しんでほしい。10人のお客様と接すれば、10人分の学びが得られると思うのです。
撮影/島崎信一
(2024 10/11/12 Vol. 749)