令和6年春 褒章受章者インタビュー

「正解」がないことが料理の魅力です

黄綬褒章 業務精励(調理業務)

佐藤 進一さん

(株)京王プラザホテル
取締役総料理長兼調理部長

──黄綬褒章の受章おめでとうございます。

ありがとうございます。大変光栄です。京王プラザホテルに入社して40年以上、よく頑張ったと自分なりに評価しつつ、やはり皆さんの支えがあったからこそ、ここまで来られたのだと思っています。

──シェフとしてキャリアを積み上げてこられましたが、お料理には元々ご興味があったのでしょうか。

大勢兄弟がいる中で下から2番目だったので、兄や姉から食事を作るよう指令がよく出まして(笑)、せっかくだから美味しいものを作ろうと子どもながらに工夫していたことを覚えています。小学校3、4年生の頃です。褒められるとうれしくて、新しいメニューに挑戦したりして。私は高校1年で父を亡くしたものですから、高校卒業後は進学せずに、現場で実践を通して勉強したいと考えていました。いつしか、新宿新都心のパイオニアとして時代の最先端をいく京王プラザホテルで、調理人の道を歩みたいと思うようになったのです。

──京王プラザホテルに入社後、まずはウエイターとして経験を積まれたのですね。

初めの1年は、ウエイターとして直接お客様と触れ合う業務に携わりました。お客様が何を求めているのか、どんなサービスをすれば喜んでいただけるのか、じかに感じることができたのは、非常に貴重な財産となりました。その後、調理人となってからも、お客様の顔を思い浮かべながら料理を作ることを大切にしてきたのは、この新人時代の得がたい経験があったからだと思います。

──その後、いよいよ調理人としてのキャリアがスタートしました。

入社2年目でメインキッチンに配属となり、じゃがいもや玉ねぎの皮剥きといった下ごしらえのための準備をする日々が続きました。初めは単純作業の繰り返しでしたが、早く仕事をこなすと、次の仕事がもらえるんです。そうやって自分から仕事の幅を広げていくことで、成長のスピードが加速していきました。その部署には7年ほど在籍しましたが、ホテルで使う野菜、スープ、ソースなど全ての基本を学びました。地味な仕事かもしれませんが、そこには必ず意味があり、いつか必ず役に立つ。その信念は間違っていなかったと実感しています。

──これまでのお仕事で忘れられない出来事はありますか?

フランス人シェフを招いて開催した「グルメウィーク」というフェアでしょうか。ミシュラン史上最年少で3つ星を獲得したアラン・デュカス氏をはじめ、本場フランス人シェフの仕事ぶりを間近に見て、身体に電気が走るような感覚になったことを覚えています。料理と向き合う緊張感はすさまじく、ソースひとつをとっても、その深いこだわりは驚嘆すべきものでした。当時私は入社して10年ほど経っていましたが、料理人としてさらに上を目指していくうえでの自分の甘さを思い知り、もっと努力をしなくてはいけないと切に感じた瞬間でした。自分の調理人としての哲学や在り方を決定づける出会いだったと思っています。

──シェフというお仕事の魅力はどんなことでしょうか。

もちろん、自分が作った料理でお客様が笑顔になってくだされば大変うれしいですが、実は自分の中では「これこそ最高の料理だ」というものをまだ作っていないと思っているんです。つまり、まだまだ先がある、もっと美味しいものが作れるに違いない、と。それこそが、この仕事の魅力かもしれません。料理には正解がなく、終わりがない。常に成長過程にいられるからこそ、どうしようもなく惹かれるものなのではないでしょうか。

──2013年に京王プラザホテル八王子、2021年には京王プラザホテルの総料理長に就任されました。総料理長として大切にしているのはどのようなことでしょうか。

調理人の役割というのは、その技術を次の人に継承し、後世につないでいくこと。総料理長として、料理に向き合う姿勢、学び続ける姿勢をしっかり伝えていく必要があると考えています。総料理長はよく「指揮者」に例えられますが、料理に携わる人たちに自分の考え方を伝え、それぞれの成長を促し、一人ひとりの力を生かすことでホテルの料理を完成させていきます。ぜひこれからも、京王プラザホテルという「広場」に集うお客様に、料理を通して幸せな気分を味わっていただけたらと願っています。

──シェフを目指す若手ホテリエにメッセージをお願いします。

先ほどもお話しした通り、意味のない仕事はひとつもありません。つまらない作業だと思っても、それを毎日積み重ねていけば必ず成果となって表れます。成長の度合いはなかなか目に見えないかもしれませんが、努力は必ず報われます。ぜひ高い志を持って、がむしゃらに努力してほしいですね。料理というのは、非常に楽しいものなんです。終わりがなく無限に広がる可能性があるのですから。若い方々には、おおいに情熱を傾けてほしいですね。

写真/島崎信一
(2024 4/5/6 Vol. 747)