SNS活用でホテルのファンづくり

日本ホテル協会が開設
インバウンド向け公式インスタグラム

日本ホテル協会インバウンド向け公式インスタグラム

日本ホテル協会では、会員ホテルの魅力を広く海外の方々に向けて発信するため、インバウンドに特化した公式Instagram(インスタグラム)を立ち上げ、2025年1月から運用を始めました。

全国228軒を数える会員ホテル(2025年3月現在)の映えスポットや、その周辺のアトラクションなどを撮影したショート動画を中心に、季節やテーマに合わせたオリジナルコンテンツを順次投稿、更新していきます。

総合ディレクターには、デジタルコンテンツの制作を主体としたクリエイティブチームminsakを率いる左居穣氏を迎え、デザイン・クリエイティブの完成度を高めています。以下、左居氏へのインタビュー記事をご覧ください。

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左居穣ディレクターに聞く、効果的なインスタグラム・コンテンツとは

インバウンドに特化したまったく新しいホテル情報発信源

──日本ホテル協会公式インスタグラムの総合ディレクターを務めておられます。どのようなコンセプトで発信しているかお聞かせください。

もともとは日本ホテル協会の方々と広報全体の方針について話し合うなかで、200軒を超える全国の多彩な会員ホテルの魅力を、どのような形で発信すれば効果的かということを検討しました。1軒1軒の単体としての情報発信ではなく、ホテル相互の連携力を高めながら、広くつながりをもって発信する方法を考えましょうと。

今の時代、若い世代を中心に多くの人々がSNSを使って、観光地や宿泊先の情報を手にしています。そうしたお客様の感度の高い「解像度」に合わせ、SNSによる情報発信を進めていく方針はすぐに決まりました。ただ、個々のホテルですでにやられているのと同じことをしても、新しいメリットは期待できません。そこで、日本ホテル協会としてはインバウンドのお客様に完全に特化した情報発信をすること、また各ホテルが持つ既存の素材を使うのではなく、外国人客の目線を徹底的に意識した新しい画像や映像、情報といったオリジナルの素材をつくること、この2つの方針を決めました。

──SNSの中でもインスタグラムで発信することに決めたのはなぜでしょう。

インスタグラムのユーザーは、若年層から年配の方まで幅広い世代に広がっています。その点がホテルの客層と合致していることが一番の理由。それに加えて、インバウンドに的を絞った広報を展開するうえで、そういったターゲットのセグメントに対してインスタグラムの仕組みがしっかり最適化されていること。また、インスタグラムには「リール」や「ストーリーズ」と呼ばれる短い動画を作成・投稿できる機能があって、ユーザーやフォロワーに効果的に情報を届けられることも大きな利点です。

デザイン性の高い映像コンテンツを軸に、目を惹きつける

──コンテンツを制作するにあたって、どんな工夫をされていますか。

ホテルの質感や雰囲気をより魅力的に伝えることを念頭に、リール動画を中心に発信しています。専門の撮影クルーを組成して、各ホテルに派遣。パンフレットやWebサイトにはあまり見られない、普段はなかなか撮らないスポットやアングルに目を向けて映像に収めています。例えば、屋根の上にさりげなく置かれたオブジェとか、アンティークな造形物の一部とか。これはいったい何だろうと、お客様の興味をそそるものがいいですね。

映像の向きはインスタグラムに適した縦長に。動画を流すだけでなく、その周囲にフレームと呼ばれる枠をつけ、その中にも地図やテキストなどの情報を加えたり、グラフィックを施したりすると、特に海外のユーザーの目には留まりやすくなるはずです。

撮影対象やアングルに工夫凝らし、フレームなどを活用してデザイン性を高めている
撮影対象やアングルに工夫凝らし、フレームなどを活用してデザイン性を高めている

撮影対象やアングルに工夫凝らし、フレームなどを活用してデザイン性を高めている。

──やはりテキストより動画のほうが、アピールの度合いは高いのでしょうか。

一概にはいえませんが、動画のほうがたくさんの情報を入れられますし、言語の違いを問わずに伝えられる強みはあるでしょう。デザイン性が高く、エモーショナルな感覚に迫り、思わずもう一度見てしまう。そんな投稿にコメントが付き、「いいね!」が付いて、フォロワーの数が増えていきます。

ただし、代わり映えのしない発信を続けると、すぐに飽きられてしまいます。SNSは絶えず刷新を繰り返すことが重要。ビジュアルの見せ方も、情報の中身や出し方も、ユーザーの反応を見ながらこまめに変えていかなくてはいけません。意図的な変化や違和感の演出により、見る人の目線が変わることで次のフォローにつながります。

ですから、この日本ホテル協会のインスタグラムにも、「フィード(メインの投稿部分)」を活用したテキスト情報や、人が介在する光景を切り取った映像、旅の楽しみ方にアプローチする仕掛けなど、今後さまざまな展開が見られることになるでしょう。

「点をつないで線にする」発想で新しいデザインを

──今後の展開が楽しみですね。ご予定をお聞かせください。

数軒の会員ホテルの情報発信から始めたばかりですが、年間で数十軒ずつ増やしていけるよう撮影などを進めています。開設して3カ月もたたないうちに、フォロワー数は5000人を超えました(2025年3月上旬)。この勢いで、少なくとも数万人規模の方々にフォローされるものにしていきたいですね。

日本ホテル協会の会員ホテルは皆、それぞれが唯一無二の魅力を持っています。よく「うちには特別にアピールするネタがない」とおっしゃるホテルがありますが、そんなことはありません。自分たちでは気づかない魅力が、外部の制作陣やお客様の目で発見されることはよくあります。また逆に、こちらが見落としている魅力をホテルの方から推薦される事例もたくさんあります。ぜひ、力を合わせて良いものにしていきましょう。

──ありがとうございます。最後に、左居さんが大切にしているデザイン・クリエイティブの考え方についてお聞かせください。

デザイン設計においては「点のものづくり」ではなく、「点をつないで線にする」ことを重視しています。発信したい情報やモノを単体で考えず、違うもの、異なる情報、別の媒体などと結びつけることで、相乗効果を生み出すということです。

ですから私たちminsakの制作領域も、Web、SNS、映像、プロダクト、パッケージ、空間などと多岐にわたり、対象もブランディングやキャンペーン、製品広告などさまざまです。それぞれの案件やお客様の特性に応じて、制作チームの編成も変えていく。そんな異分野のコラボレーションから、思いもよらないデザインが生まれていくのだと思います。この日本ホテル協会公式インスタグラムのディレクションも、そんな思いで楽しんでいます。

取材・文/編集部
(2025 1/2/3 Vol. 750)

Profile
左居 穣(さこ・みのる)●1981年岡山県生まれ。デザインプロダクションBusiness Architectsを経て独立。2008年にデジタルコンテンツの制作を主としたクリエイティブチームminsakを立ち上げ、ディレクター、デザイナー、デベロッパーなどさまざまな立ち位置で、ジャンルにとらわれないブランドのクリエイティブを手がける。国際広告祭「カンヌライオンズ」、The One Show、クリオ賞、文化庁メディア芸術祭、グッドデザイン賞など国内外の広告賞を多数受賞している。
https://minsak.jp