SNS活用でホテルのファンづくり

SNSでファンを増やし、ファンとつながる!

本門功一郎 氏
一般社団法人SNSエキスパート協会 理事/株式会社ジソウ 代表取締役

Instagram、X(旧Twitter)、FacebookにLINEと、SNSは今や年代を超えて親しまれている。YouTubeやTikTokの人気もテレビを凌ぐ勢いだ。SNSメディアを、ファンの獲得や業績の拡大に活用する企業が増えるなか、ホテルにおける効果的なSNS運用について、一般社団法人SNSエキスパート協会の本門功一郎理事に聞いた。

ホテルと世界を結ぶ、画期的な情報ツール

──企業のSNS活用にはどんなメリットがありますか。

情報を発信しても、SNSの公式アカウントで投稿するなら広告料は不要です。ネットリテラシーを踏まえたうえで、伝えたいことを自由に、しかもお金をかけすぎずに発信できるのです。まずこれが大きなメリットです。しかもSNSの愛用者は、国境も世代も超えて広がっていますから、文字どおり世界中の人たちに見てもらえるわけです。

いつ見に来ても内容が新鮮で楽しければ、フォロワー登録してくれるファンも増えてきます。コンテンツを頻繁に投稿する手間はあっても、世界と双方向でつながる自前の情報発信ツールが持てるというのは、画期的ではないでしょうか。

──SNSを導入する際の流れと、重要なポイントを教えてください。

最初に押さえておくべきなのは、「誰に向けて発信するのか」です。ひと口にホテルといっても、タイプや特徴によってターゲット層は違うはず。リピーター向けか、新しいファンの獲得に力を入れるのかでも、アプローチは変わってきます。

Instagram、TikTok、YouTubeといった画像・動画系のメディアは、ホテルと相性がいいと思いますよ。美しいビジュアルには、言葉を超えた訴求力がありますから、ホテルの魅力をストレートに伝えてくれます。

コンテンツについては、自分たちで撮った写真や、お客様へのメッセージを投稿することもできます。ですが企業の場合、プロに制作を頼むことも多いですよね。一般的には、マーケティングや広報部門がSNSも担当しているので、広報素材などが流用できる点は効率的。ただ、SNSはフレッシュな情報が求められる運用型のメディアですから、同じ素材を長く使わないよう気をつけましょう。

軌道修正を重ねてより良いコンテンツを目指す

──見に来てくれる人の気持ちを確実につかむコツのようなものはありますか。

ターゲット層に的確にアプローチできているか、フォロワー数や属性、動画なら平均視聴時間、視聴総数はどうかなど、分析機能を使って見てみましょう。平均視聴時間からは、飽きずに見てもらえる動画の長さが推測できますし、好まれるコンテンツの傾向も見えてきますから、こまめにチェックして必要な軌道修正をしていきます。

また、どういう投稿に「いいね!」や「コメント」がたくさんついたか、あまり見てもらえなかったのはどういう投稿だったのか、よく観察して次に生かしてください。慎重に反応を探りながら、PDCAを回していくイメージです。3カ月か半年に一度くらいは全体を振り返って、問題点を改善していくことも重要です。

季節の催事やキャンペーンがらみでは、見に来る人の属性が変わることもありますよ。例えばアフタヌーンティーの写真をたくさん投稿すると、女性のアクセスが増えるというように、ホテルのイベントとうまく連動させれば、特定層にアピールしやすいと思います。

──期待した効果が得られない場合、どんな問題が考えられますか。

「フォロワー数も反響もそこそこあるのに、売り上げに結びついているかというと、よく分からない」といった声を聞きますね。運用に要する時間や労力が負担で、継続できなくなってしまうケースもあります。

最大の問題は、SNSを運用する目的や、何をもって成果とするかを明確にしていないことです。SNSも通常の広報活動と同じように、計画的な運用が不可欠だと理解して臨みましょう。

SNSの事業貢献度合を確認するにも、そのための仕掛けが必要です。ホテル利用者にアンケートを取ってみるのもいいですよね。「どのように当ホテルを知りましたか」「当ホテルを利用したいと思ったきっかけは」などの項目を選択回答式にして、選択肢にSNSも含めます。そこにチェックがつけば、SNSの貢献が目に見える形で確認できます。

ユーザーを巻き込んで、SNSとリアルを結びつける

──企業によるSNS活用の成功例をご紹介ください。

一般企業ではありませんが、森美術館などは上手だなと思います。企画展のときなどに、「写真を撮ってあなたのInstagramに投稿してください」とやるのです(もちろん撮影不可の作品は除いてです)。「インスタ映え」する写真を撮りたい人は多く、皆さん喜んで参加してくれます。あとはSNSユーザー間で、どんどん情報が拡散されていくというわけです。SNS上だけで完結しようとするのではなく、リアルな場でのお客さんの動線をSNSと結びつけ、成功している好例です。

──ホテルでも応用できそうですね。

催事やキャンペーンのタイミングに合わせて、やってみてはいかがでしょうか。「こんな写真が撮れますよ」といった見本を用意してあげると、外国からのお客さんや、子どもさんも理解しやすくなりますよ。

イベントやキャンペーンなどと連動させて投稿を促す仕掛けづくりを。

インセンティブで投稿を促すという発想もあるかもしれませんが、SNSにはキャンペーンに関する規約もあって、投稿やフォローを条件にプレゼントをあげたりするのはNGだったりします。あらかじめ規約をよく読んで、確認してくださいね。

──運用について、ほかに気をつけることはありますか。

ホテル内のあちこちで写真や動画を撮影することになりますから、SNSを始める段階で、各部署に協力をお願いしておくことをすすめます。「あの料理の投稿に、こんな反響がありましたよ」と報告すれば、厨房スタッフもすごくうれしいと思いますよ。

インバウンド対応ということでは、テキストだけでなく、投稿のタイトルも日英表記にすると、海外の方の目に留まる確率が多少なりともアップするかもしれません。動画に英語のテロップをつけることも可能なので、工夫してみてください。

SNSは楽しんでやるのが一番です。良くも悪くも、すぐに反響が分かるメディアですから、仮説、実践、検証のサイクルも、皆さんからの反響も楽しみつつ、売り上げに結びつけていただければと思います。

取材・文/田中洋子
(2025 1/2/3 Vol. 750)

一般社団法人SNSエキスパート協会
https://www.snsexpert.jp

本門功一郎(もとかど・こういちろう)
Profile

本門功一郎(もとかど・こういちろう)●一般社団法人SNSエキスパート協会理事、株式会社ジソウ代表取締役。大手外資系メーカーのマーケティング担当などを経て、2010年にコムニコに入社。コンサルタントとしてさまざまなクライアントのSNSマーケティング支援を担当。2016年11月、一般社団法人SNSエキスパート協会を立ち上げ、理事に就任。2023年4月にSNSマーケティング支援企業の株式会社ジソウを設立。主な著書に『デジタル時代の基礎知識「SNSマーケティング」第3版 「つながり」と「共感」で利益を生み出す新しいルール』(翔泳社/共著)がある。