ホテル業必⾒ 観光消費トレンド2025

アクティビティ目的の宿泊客、急増中!

ホテル立山

雄大な自然を満喫しようと、立山黒部アルペンルートには毎年国内外から多くの旅行客が訪れる。ホテル立山ではこの主要客層に向け、宿泊して初めて体験できる、ニッチで没入感満点のネイチャーアクティビティの数々を提供。引率するホテルスタッフも丁寧な解説を行って、もともとあった観光資源を、より魅力的な「トキ消費」の素材へと育てあげている。

アクティビティ目的の宿泊客、急増中! ホテル立山

夕暮れの「雪の大谷」を散策し、初夏の朝に雷鳥と出合う

秋を迎えた立山。時刻は午後4時少し前。ホテル立山のフロントロビーに、宿泊客が続々と集まってくる。フロントスタッフが引率する「室堂散策」の参加者たちだ。年配者も無理なく参加できるよう、行程はゆっくり歩いておよそ1時間。地元のスタッフならではの、きめ細やかな解説を聞きながら、ガイドブックには載っていない、景色のよいスポットにも足を延ばす、人気のアクティビティである。

「当館は、立山という豊かな自然の真ん中にあるホテルです」と、宿泊部長の川上則幸さんは言う。「その自然環境の中で、当館に宿泊しなければできない体験をしていただきたいと、さまざまなネイチャーアクティビティをご用意しています」

代表的な企画が、「雪の大谷散策」である。春から初夏にかけて実施され、多いときには100人もの宿泊客が参加する。バスの最終便が終わり、一般の観光客が全員いなくなった夕方5時から遂行されるのが、何といってもミソだ。500メートルほどの距離を徒歩で「雪の大谷」へ向かい、喧騒が去った雪の回廊を、貸し切り状態で散策できるとあって、その特別感は折り紙付き。参加者からは、「車道を自由に歩き回るなんて、普通は絶対にできないこと。おかげで圧倒的な景観をたっぷり堪能できた」「前にバスで来たことがあるが、今回はホテルの方の解説付きで、とても楽しく勉強になった」といった感想がたくさん寄せられている。

ホテルスタッフが高さ約20mに迫る「雪の大谷」を案内。
ホテルスタッフが高さ約20mに迫る「雪の大谷」を案内。

初夏の朝限定で実施する「雷鳥ウォッチング」も、「雪の大谷散策」と並ぶ注目のアクティビティだ。「5月、6月は雷鳥の目撃率が高いんです。しかも雷鳥は人を怖れず、平気で足元まで歩いてきたりしますから、運がよければ本当に間近で見られるんですよ」。そう語る川上さんの言葉が、このアクティビティの魅力を言い表している。「顔を輝かして、『こんなに近くで本物の雷鳥に会えるなんて!』と喜ぶお客様を見るたびに、やっていてよかったと心から思います」

6月から10月の晴れた夜には、スタッフの案内による星空観察会や、富山県天文学会の講師を招き、天体望遠鏡を使った本格的なスターウォッチングが開かれる。これもまた、標高2450メートルという、空に近い立地を生かしたネイチャーアクティビティだ。

雷鳥ウォッチングで「神様の遣い」といわれる特別天然記念物と出合う。
雷鳥ウォッチングで「神様の遣い」といわれる特別天然記念物と出合う。
天体望遠鏡を使用した本格的な星空観察を楽しむスターウォッチング。
天体望遠鏡を使用した本格的な星空観察を楽しむスターウォッチング。

宿泊者限定・期間限定だから高まる“没入感”

驚くことに、これらのアクティビティはすべて、予約不要、追加料金なしで、宿泊客なら誰でも参加することができる。5名のフロントスタッフが交代でアテンドし、毎回、案内や解説を行っているのだが、意外にもガイド資格のようなものは特に設けていないし、改まった研修も行ってはいない。

「野外での活動では安全管理を徹底し、散策するコースもおおまかに決めています。でもそれ以外はスタッフ各自が自主的に調べて、常に内容を改善しているのです。『地面が凍結する時期は、この迂回ルートを行くほうが安全だ』『珍しい植物が自生する場所を見つけた』『もっと近くで雷鳥観察ができるスポットがある』など、スタッフ間での情報交換は欠かせません」

アクティビティ自体は、富山市内にある立山貫光ターミナル(株)のホテル事業部が企画し、事業部とホテルの担当者が実際にコースを歩いて、ブラッシュアップする形でつくり込んできた。

もともとホテル立山のお客様は、自然を愛するアウトドア派だ。若い頃訪れた立山を、もう一度歩いてみたいという年配の旅行者も多い。そうした客層にしっかり向き合い、参加型のネイチャーアクティビティを提案することで、ホテル立山は、自社が持つ「豊かな自然環境」というコンテンツを、「コト消費」から「トキ消費」へとシフトすることに成功している。加えて、宿泊者限定、期間限定といった制約があることで、図らずも非日常感が増幅し、参加者の没入感を深めている点にも注目したい。

立山に広がる豊かな自然環境そのものが唯一無二の観光コンテンツだ。
立山に広がる豊かな自然環境そのものが唯一無二の観光コンテンツだ。

立山に広がる豊かな自然環境そのものが唯一無二の観光コンテンツだ。

旅への期待を盛り上げる、ホームページの詳細情報

今日もホテル立山には、雄大な自然に魅せられた多くの旅行者が国内外からやってくる。チェックインの際、フロント係がアクティビティの説明もすることになっているのだが、「今日の室堂散策は何時からですか?」と、お客様のほうから先に聞かれることも日常茶飯事だという。ホテル立山のネイチャーアクティビティは、すでにそれほど浸透しているのだ。

「実は日本人か外国人かを問わず、アクティビティが目的で当館に宿泊される方がけっこう多いのです。参加したいアクティビティの時間を、ホテルのホームページで調べ、それに合わせてチェックインする方も少なくありません」

ホームページ(イベント・アクティビティ)には、「雷鳥ウォッチング」で雷鳥が見られる確率、「星空観察会」の実施確率(晴天確率)などが、月ごとに掲載されている。旅行者は、どの時期に立山へ行けば、高確率で雷鳥や星空が見られそうか、狙いを定めて計画が立てられるというわけだ。利用者の知りたいことに応える丁寧な情報が、人々の想像力をふくらませ、旅に出る前から期待や没入感を高めていることは間違いないだろう。

今後、実施予定の新しいアクティビティはあるのだろうか。川上さんに聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「アテンドするスタッフの人数も限られていることですし、当面は新しいことよりも、現在のアクティビティを充実させたいですね。どうすればお客様に、もっとご満足いただけるだろうか。そう考えながら、立山の自然の中を歩く毎日です」

取材・文/田中洋子
(2024 10/11/12 Vol. 749)

ホテル立山(公式サイト)
https://h-tateyama.alpen-route.co.jp