ホテルの健康経営を考える

期待される以上の
サービスを提供するために

ロイヤルパークホテル高松
(穴吹エンタープライズ株式会社)

ロイヤルパークホテル高松を運営する穴吹エンタープライズ株式会社は、ホテル・旅館事業や公民連携事業、サービスエリア&リゾート事業などを柱として、香川県や岡山県を中心に事業展開を行う会社。健康経営に力を入れるようになった背景には、サービス業を主力とする企業としての矜持があった。

ロイヤルパークホテル高松(穴吹エンタープライズ株式会社)

もっとわくわく、もっといきいき

穴吹エンタープライズ株式会社、経営企画部の十河 楓さん(人事総務課)は、健康経営を導入した経緯を次のように語る。

「当社の経営方針は、お客様が期待する以上のサービスを提供し、安心、満足、感動をお届けするというものです。これを実現するには、従業員の一人ひとりが、健康な身体とゆとりある心を獲得することが不可欠だと考えて、健康経営に取り組むようになりました」

2019年には、心身ともに健康で、もっとわくわく、もっといきいき活躍できる職場をつくろうと、「健康経営宣言」を策定。同じ年、「健康経営優良法人認定制度」の中小法人部門で初の認定を得た。その後は大規模法人部門に切り替えて申請し、今年2024年度に至るまで、毎年連続して認定を受けている。

健康経営の「推進事務局」を務めるのは、十河さんが所属する経営企画部。これを軸に、各事業部や施設に推進責任者を置き、会社としての意思決定は経営会議で行う形をとっている。

忙しくてもしっかり休もう、リフレッシュしよう

健康経営というと、健康診断の受診率向上や、血圧やメタボなどの健康リスクを下げる取り組みが頭に浮かぶが、健康経営の取り組みはもっと幅が広い。

あなぶきエンタープライズの場合、所定外労働時間の削減、有給休暇取得率の向上など、働き方の改善にも力を入れるだけでなく、従業員の余暇の充実やリラックスできる職場の環境づくりにも配慮している。オンオフの切り替え、良好な仲間との関係、趣味などを通して心を健やかに保つことも、健康維持の一環だからだ。

健康経営が導入される前の状況を、ロイヤルパークホテル高松の総支配人、高橋宗民さんはこう語る。

「私たちのホテルにも、ホテルにつきものの課題がありました。有給休暇制度があるのに、十分活用されていない。みんな忙しいのがわかっていると、休みを取りたいと言い出せないのでしょう。所定外労働時間のことや、シフト勤務で社員同士のコミュニケーションが希薄になりがちであることも、私としては気になっていました」

健康経営の取り組みが始まると、状況は少しずつだが変わってきた。会社は全事業部を通じて有給休暇の取得を呼びかけた。土日や祝日と有給休暇を組み合わせて、5日以上のまとまった休みを取ることができる「リフレッシュ休暇」も、積極的に利用するよう奨励している。

ホテルのスタッフが、5日も連続で休みをとるというのは、現実にはそう簡単ではない。それでもなお、会社が従業員に休暇を奨励し、熱心にアナウンスした意味は大きいと、高橋さんはいう。

「会社の本気がみんなに伝わって、前より休みが取りやすくなりました。今月はAさん、じゃあ来月はBさんねと、スタッフ同士でシフトをやりくりし、5日は無理でも連休を取ったりするケースも出てきました。元気で働き続けるためにも、しっかり休みを取ろう、オンオフのメリハリをつけて、気分をリセットしようといった意識が、浸透してきたように思います」

健康経営セミナーを開催し、社員の健康への意識向上を図る。
健康経営セミナーを開催し、社員の健康への意識向上を図る。

シフト制のため、従業員同士のコミュニケーションが希薄になりがちという指摘も、実はけっこう深刻だ。孤独、疎外感、フラストレーションなど、心の健康と関係しているからである。

この問題については、スポーツ活動がひとつの答えになったようだ。部署を問わず社内の誰もが参加できるクラブで、バドミントン、野球、ゴルフなどを楽しむ人が増えた。コンピューターゲームやビデオゲームで対戦する、eスポーツのクラブもあれば、あなぶきエンタープライズが全社から参加者を募り、リレーマラソンの大会に出場もしている。

おかげで、普段は言葉を交わすこともない、異なる部署の人たちが笑顔で話し、同じ職場の仲間との間にも、仕事以外の共通の話題ができた。コミュニケーション不足の問題に、少しずつ好転の兆しが見えてきたようだ。

リレーマラソン大会に出場。健康だけでなく、コニュニケーションの促進にも一役買った。
リレーマラソン大会に出場。健康だけでなく、コニュニケーションの促進にも一役買った。

健康経営を通じて「All Smiles」を実現する

とはいえ、健康経営の取り組みはまだまだこれからだ。

「例えば生成AIなども上手に活用して、効率化の仕組みづくりをやっていきたい」と十河さん。あなぶきエンタープライズが運営するホテルのひとつ、高松パークホテルでは、宿泊に特化したホテルの特性を生かし、AIを使った省人化を進めた。チェックイン、チェックアウト業務を、完全にAIアバターが担当するシステムの導入は、香川県初とのこと。

この事例を、ロイヤルパークホテル高松に当てはめることは、もちろんできない。ホテルの規模も、個性も、お客様も異なるためだ。しかし、先端技術を業務の効率化に役立てることで、所定外労働時間を縮小し、従業員の負担を軽くすることは可能だと、十河さんたちは考えている。

最近、大学生の就職活動では、働きやすい職場か、働き甲斐や成長を実感できる職場か、といったことを重視する学生が増えている。それもあってか、「健康経営を通じて従業員の満足度を高め、仕事の成果を上げ、地域にも貢献したい」と採用面接で説明すると、学生たちの反応は上々だ。

「当社は、宿泊施設や公共施設の運営を通じて、地域とつながる企業です。瀬戸内エリアに明るくフレッシュな風を運ぶ、『SETOUCHI Vitamin Company』を目指し、これからも健康経営を推進していきます」(十河さん)

「ホテルとしては観光の分野から、SETOUCHI Vitamin Companyを目指すことになります。従業員も、お客さまも、地域社会も笑顔にという意味のスローガン、『All Smiles』を、健康経営という考え方を通じて実現できればと思います」(高橋さん)

取材・文/田中洋子
(2024 7/8/9 Vol. 748)

ロイヤルパークホテル高松(公式サイト)
https://ryl.anabuki-enter.jp