ホテルの健康経営を考える

健康経営はホテル業界発展のための
大きな力

グランド ハイアット 東京 ほか
(森ビルホスピタリティコーポレーション)

グランド ハイアット 東京、アンダーズ 東京、ジャヌ東京などのホテル事業をはじめ、さまざまなホスピタリティ事業を展開する森ビルホスピタリティコーポレーション。ホテル業界における「健康経営」の実践とは? その意義とメリットとは? 先駆者の取り組みを紹介する。

グランド ハイアット 東京 ほか(森ビルホスピタリティコーポレーション)

現状を把握し「棚卸し」からスタート

ホテル事業をはじめ、ウェルネス事業や会員制クラブ事業などを手掛ける株式会社森ビルホスピタリティコーポレーション。親会社である森ビル株式会社の健康経営優良法人の認定とその後の「ホワイト500(特に優良なTOP500社)」選出をきっかけに、グランド ハイアット 東京をはじめホテル業でも取り組みを始めた(森ビルは2024年でホワイト500に3年連続で選出されている)。

「ホテル業界はどうしても長時間労働・拘束になりがちですから、認証取得のハードルは高いと感じていました。それでも、グループ会社全体のイメージアップはもちろん、ホテル業界の未来にもつながる『これからの社会に必要な取り組み』だという思いでスタートしました。社長の即断にも背中を押されました」と、森田俊明さん(株式会社森ビルホスピタリティコーポレーション執行役員、企画管理部長)。

社長をトップに、以前から活動していた安全衛生委員会、産業医、従業員代表などで構成される健康経営推進委員会を立ち上げ、「棚卸し」から着手。現状を把握し、組織としての課題をあぶりだし、まずは健康診断の受診率やストレスチェックの受検率を見直した。

「本来100%であるべきですが、ストレスチェックの受検率は74%というのが現実でした。正直に言うと、これは開示したくない数字ですが(笑)、現実を曲げるわけにはいきません。いかに健康診断の受診率、ストレスチェックの受検率を上げていくか、それが課題でした」

取り組みの結果、ストレスチェックは99.7%まで改善。健康診断の受診率も大幅に高まった。
また、ホテル業界では女性スタッフの比率が高いことから、女性特有の健康課題についても取り組んだ。研修やeラーニングを実施し、月経やPMS(月経前症候群)、更年期障害などについて、管理職や全社員への理解を求めたという。

「社員のアンケートによると、驚くほど好評でした。『単発ではなく、この取り組みをずっと続けてほしい』との声が多く寄せられました」

取り組みを始めておよそ1年。まだまだ基礎固めの途上であり、今は成果についての判断や評価をする段階ではないという森田さん。それでも、会社として社員の健康を守ることに関心を持ち、さまざまな取り組みを始めたというメッセージは広く伝わり、意識の変化が芽生えているのを感じているそうだ。

マネジメント向けの健康経営セミナーを実施。健康意識の向上を図る。
マネジメント向けの健康経営セミナーを実施。健康意識の向上を図る。

メンタル面も含めたさまざまな取り組み

今後、取り組みたいのは、社会的にも注目を浴びている睡眠の問題。

「ホテルは1年365日、24時間、ゲストへの最良のサービスを提供するため、シフト制で働くスタッフの睡眠の質の向上は、重要な課題の一つなのです」

現在、寝具メーカーやアプリの制作会社と協議して、快眠をサポートするための実証実験や、システムを考案しているそうだ。

メンタル面では、瞑想やその他のトレーニングによって高められるというマインドフルネスに注目。日本における曹洞宗の中心的な寺院として名高い福井県・永平寺の役寮(住職)の講話を企画中だ。

「マインドフルネスとは、今、起こっていることに意識を集中し、判断や評価などをせずに、ただ観ることを意味します。禅の修行のように自分と向き合う体験は、良い影響をもたらしてくれるでしょう」

なぜ、ここまでスタッフの健康管理に力を入れるのか。森田さんには、信念ともいうべき確信的な答えがある。

「メンタルもフィジカルも、深刻な状況に追い込まれる前の予防というか、病気に至らない段階でのケアが大切だと思います。それは、個人としても良いことですし、会社としても休職や離職のリスクを減らすことにつながります。健康経営は、これからのホテル業に必要な視点だと思います」

メンタルヘルスのケアを視野に、ヨガと瞑想のイベントも開催。
メンタルヘルスのケアを視野に、ヨガと瞑想のイベントも開催。

ホテル業界の未来のために

「インバウンドに関して、日本政府は2030年までに6000万人を目標としており、ホテル業界はさらなる成長が見込まれる産業です。増収増益の分は、設備などのハード面だけでなく、スタッフへの投資も惜しまずに取り組んでいかなければならないと思います」と、森田さん。その胸には、より良い健康経営を目指して、さまざまな施策に力を入れていきたいという熱意があふれている。

「ホテルは人と人が行き交う空間、つながる空間です。スタッフがイキイキと働く様子は、ホテルのゲストだけでなく、この街で暮らす人、働く人、商業施設を訪れる人などに伝播するでしょう。つまり、スタッフが元気でいることは、ホテルがにぎわうだけでなく、街全体の活性化につながります。森ビルホスピタリティコーポレーションは、そうした総合的に循環している街づくりに貢献したいのです」

先駆者としてのアドバイスとして、森田さんは、必ずしも健康経営優良法人の認定を受ける必要はなく、その視点を持つことこそが重要だと言います。それでも、実際に認証に向けた取り組みには今の状況を把握できるメリットがあり、また認定を受けることで、ホテル業界の評価が上がると指摘する。

「若い人がホテル業界に魅力を感じ、ぜひ働きたいという人気の職種になることを願っています」

5年後、10年後、健康経営の取り組みはどう評価されるのか。森ビルホスピタリティコーポレーションの挑戦は続いていく。

取材・文/ひだいますみ
(2024 7/8/9 Vol. 748)

グランド ハイアット 東京(公式サイト)
https://www.hyatt.com/grand-hyatt/ja-JP/tyogh-grand-hyatt-tokyo

アンダーズ 東京(公式サイト)
https://www.hyatt.com/andaz/ja-JP/tyoaz-andaz-tokyo-toranomon-hills

ジャヌ東京(公式サイト)
https://www.janu.com/janu-tokyo/ja/