ホテルの健康経営を考える

従業員の健康が、
「笑顔のおもてなし」につながる

秋田キャッスルホテル

2022年からプロジェクトチームを立ち上げ、従業員の健康支援に取り組んできた秋田キャッスルホテル。根底にあるのは、従業員が「常に笑顔を絶やすことなく」お客様を迎えられるようにという、企業理念にもつながる思いだという。

誰もが長く、健やかに働ける職場環境を目指して

「健康」についてのセミナーを実施

秋田市の中心部に位置し、観光ポイントへのアクセスの良さで人気を集める秋田キャッスルホテル。2022年に「健康経営宣言」を発表、従業員の健康づくりを支援する「健康経営」のための取り組みを進めてきた。

「健康経営」を掲げたきっかけは、グループ会社全体で健康経営の機運が高まってきたことだったという。「他のグループ会社ではすでに何年か前から健康経営に取り組んでいたのですが、私たちはそれまで『健康』といっても、定期的な健康診断の受診を推進していた程度。まったくゼロからのスタートでした」。同ホテル総支配人の西村一英さんはそう振り返る。

そこでまず、各部門からスタッフを一人ずつ集め、プロジェクトチームを結成。さらに、取り組むべき課題を把握すべく、全社員を対象にしたアンケート調査を実施した。その結果から見えてきたのは、ホテル特有の不規則な勤務体系もあり、運動不足や食生活の偏りを認識している社員が少なくないことだったという。

「特に、東北というのは地域性として、濃い味やお酒を好む人が多い。また、アンケートで『仕事の合間につい甘いものを食べてしまう』などと答えた人も多かった。そこでまず『食事』を中心とした取り組みを始めました」(西村さん)

同ホテルでは、地域の病院や福祉施設などにホテル品質の食事を提供する「メディカル給食事業」を展開しており、栄養士・管理栄養士が約40名在籍している。その強みを生かし、野菜中心の副菜メニューを管理栄養士が監修、従業員向けの食堂で提供する「野菜プラス週間」をスタートした。

従業員食堂では、小松菜のお浸しなど野菜を使った副菜メニューを提供する「野菜プラス習慣」を実施。
従業員食堂では、小松菜のお浸しなど野菜を使った副菜メニューを提供する「野菜プラス習慣」を実施。
旬の野菜を使ったバリエーション豊かなメニューは従業員に好評で、食生活を考えるきっかけにも。
旬の野菜を使ったバリエーション豊かなメニューは従業員に好評で、食生活を考えるきっかけにも。

あわせて、「健康」をテーマにした従業員向けのセミナー開催も始めた。保健師を講師に招いて「健康な食生活」について話してもらうセミナーに始まり、健康診断の重要性について、受動喫煙の危険性についてなど、テーマはさまざま。ホテルという業態上、女性社員の占める割合が高いことを踏まえ、女性の健康について学ぶ機会も積極的に設けてきた。

「その一つが、産婦人科医の先生に月経の仕組みなどについてお話しいただくセミナーです。相互理解を深めて働きやすい環境づくりにつなげたかったので、女性社員だけではなく男性社員にも聞いてもらえるようにしました」。「健康経営」プロジェクトチームの一員で、セミナー開催などを担当する、同ホテル企画・広報課の伊藤かすみさんはそう語る。

産婦人科医による女性特有の健康課題に関するセミナー。男性社員にも積極的に参加してもらう
産婦人科医による女性特有の健康課題に関するセミナー。男性社員にも積極的に参加してもらう

当初は出席している従業員の間に「本来の仕事ではないのに……」といった消極的な空気もあったものの、回を重ねるごとに「もっといろんなことを学びたい」という雰囲気が醸成されてきたと感じるという。

お客様を、笑顔で迎えるために

同ホテルの「健康経営宣言」には、「笑顔を絶やすことなく活躍できる職場環境づくりに努める」との一文がある。「笑顔を絶やすことなく、地域と共に成長する企業」を目指す、という企業理念とリンクする形で取り入れたものだ。コロナ禍を経て、再びホテルの現場が活気を取り戻しつつある今、「従業員が心身共に健康であってこそ、お客様を笑顔で迎えられる」ことを、改めて実感しているという。

社内報などで活動内容を共有したり、社員食堂にポスターを掲示したりと取り組みの浸透にも力を入れる中で、従業員の意識にも少しずつ変化が見え始めている。

「健康経営の取り組み開始後にも2回、従業員アンケートを実施したのですが、『野菜をできるだけ取るようにしている』など、食生活への意識については明らかにポイントが向上しています。従業員と接する中での肌感覚としても同じことを感じますね」(西村さん)

一方で、日常的な運動習慣についてはなかなか広がっていかないなど、これからの課題も認識しているという。

「仕事で忙しくてなかなか運動する時間が取れないという声も多いですし、勤務体系とも関わる問題なので難しいのですが、有給休暇の取得推進など、できることからやっていこうとしています。ただ話を聞くだけでなく、みんなで一緒に身体を動かせるようなセミナーなどもやってみたいですね」と伊藤さん。西村さんも「アンケートでは、福利厚生面に関わる希望も多かったので、経営陣を巻き込みながらそうした声に応えていきたい」と話す。

「健康経営優良法人2024」認定後、ホテルのフロントに認定証を掲示したほか、社員の名刺に「認定」のロゴマークを入れたところ、取引先やお客様からも「いい取り組みをしていますね」と声をかけられたとの報告もあった。ホテル業界でも深刻な人手不足が続く中、今後就職を考えている人たちに「こんな取り組みをしている会社で働きたい」と思ってもらうきっかけになれば、という期待もあるという。

「そうした面も含めて、同様に認定を取ったホテル同士で、取り組みについての情報や意見交換などもやっていけるといいなと考えています」。西村さんはそう語る。

取材・文/仲藤里美
(2024 7/8/9 Vol. 748)

秋田キャッスルホテル(公式サイト)
https://www.castle-hotel.jp