パブリックスペースのトイレから改善
大阪を代表するシティホテルのひとつであるリーガロイヤルホテル。創業より89年にわたり、宿泊、宴席、婚礼、レストラン＆バーなど、さまざまなシーンでお客様を迎えてきた、伝統と格式を誇るホテルである。
今回、受賞に輝いた理由は、トイレのバリアフリー化にある。ロビーやレストランに近いトイレにおける、男性用の個室トイレへのサニタリーボックス（衛生用品入れ）の設置と、ゲストルームのトイレに導入した独自開発のサニタリーバッグ。これまであまり意識されていなかった分野だけに、その反響は大きい。
「きっかけは、宿泊されたお客様からの声でした」と総支配人の中川智子さんは語る。毎日、総支配人宛に届くお客様からのアンケートを確認していた中川さんは、ハッとした。
それは、宿泊客からの声だった。「病気のため、尿漏れパッドを日常的に使っているが、部屋のトイレのサニタリーバッグではサイズがあわず捨てられなかったのが残念だった」という内容だ。
尿漏れパッドを使っているお客様は、周りにたくさんいるのだろうか？ 中川さんは、試しに社内でヒアリングをかけてみると、従業員の中にも使用者がいることがわかった。たった数名から話を聞いただけでも、使用者がすぐに見つかるくらいだから、お客様の中にも困っている人は少なくないだろう。そう考えた中川さんは、さっそく委員会に諮り、問題の解決に取り組んだ。
最初に実施したのは、レストランや宴会場、ロビーなど、大勢のお客様が使用するパブリックスペースのトイレ。男性用トイレの個室にサニタリーボックスを設置したのだ。
「調べてみると、駅や公共施設のトイレでは、手洗い付近に大きな共用のボックスを設置しているケースが多いようでした。でも、レストランや宴会場に近いトイレで、知り合いが手を洗っている横で、ボックスを利用するのは気が引けるでしょう。周りに自分の病気や体の状態を知られたくない方もいるはず。そこで、各個室にボックスを置くことにしました」
お客様用のトイレだけでなく、従業員用のトイレにも設置。これまでビニール袋を持参していたという従業員も、「これで安心して仕事ができます」と喜んだという。
男性用個室トイレに設置したサニタリーボックス。女性同様、プライバシーが保持できると好評。
中川さんは、さらにトイレ改革を進めた。「パブリックスペースのトイレは解決したので、いよいよ、客室での対策に取り組みました」。
メーカーと協力して独自にサニタリーバッグを開発
パブリックスペースのトイレにサニタリーボックスを設置したことに比べると、客室のトイレ環境改善は、ハードルが高かった。
「客室内のサニタリーバッグ（衛生用品を入れる袋）は、もともと女性の生理用品を想定したものですから、コンパクトで目立たないものを置いています。しかし、そのサイズだと、尿漏れパッドや大人用の紙パンツは入りません。市販のものも調べてみましたが、ちょうどよいものは見つかりませんでした」
求めるサニタリーバッグは、尿漏れパッドや大人用の紙パンツが入る十分な大きさがあり、さらに匂いや水漏れを防ぐ衛生面にも配慮したもの。お客様からの声に真摯に応えるべく、粘り強く取り組むうちに、独自のサニタリーバッグを一緒に開発・製作してくれるメーカーにたどり着いた。
数カ月後、さまざまな工夫を凝らしたサニタリーバッグが出来上がった。バッグの内側はアルミ蒸着フィルムを施して防水性を高め、匂いや水分が漏れないようにチャックをつけ密封性にもこだわった。
「高齢化が進む中で、これから大人用紙パンツを利用されるお客様も増えていくでしょう。ニーズは確実にあると感じています」
独自に開発したサニタリーバッグ。防水性、密封性に配慮した工夫が施されている。
実は、今回の受賞が話題となり、マスコミ取材をはじめ、飲食店や他のホテルからの問い合わせも続々と舞い込んでいるリーガロイヤルホテル。
「LGBTQ＋の方々への配慮についても考えていきたいと思います。東京などで導入が進んでいる『だれでもトイレ』のように、誰でも安心してトイレを使えるよう、環境を整えていきたいと思っています」
サステナビリティに関わらず、お客様の声を常に意識する姿勢と、あらゆるお客様に、より快適な空間を提供したいという思い。総支配人をはじめとする、リーガロイヤルホテルの従業員の日ごろの真摯な取り組みが、今回の受賞に結実したのだ。
取材・文／ひだいますみ
（2024 4/5/6 Vol. 747）
リーガロイヤルホテル（大阪） 公式サイト
https://www.rihga.co.jp/osaka