日本ホテル協会 第5回社会的貢献会長表彰 優秀賞

フルーツパークは「復興の象徴」
東北の活性化と観光の推進力に

ホテルメトロポリタン仙台

震災復興に向けて観光果樹園をつくる

仙台市東部の海浜地帯。若林区荒浜の地に、年間を通して果物狩りが楽しめる人気の大型観光果樹園が広がっている。運営するのは、JR東日本傘下の仙台ターミナルビル株式会社(以下、仙台ターミナルビル)。ホテルメトロポリタン仙台の運営母体でもある。

もともと荒浜は約800世帯が暮らし、夏には海水浴客で賑わう町だった。しかし東日本大震災で被災して以来、住宅の建設は規制され、人が住めなくなってしまった。

「そんな状況が続くなか、防災集団移転跡地利活用事業の募集がありました。2017年のことです」と、成長戦略室の菅原禎さんが当時を語る。

「荒浜にもう一度、賑わいを取り戻したいという思いで、当社も復興事業に応募しました。観光果樹園をつくることを提案し、翌2018年に採択されたのです」

同社は荒浜区において仙台市が買い取った集団移転跡地約11ヘクタールを借り受け、観光果樹園開業に向けた準備を始動した。

年間を通して果物狩りができるフルーツパーク

とはいえ、アグリビジネスの経験ゼロからの立ち上げである。経営企画部が中心となり、土壌改良に取り組むことから果樹園づくりはスタートした。

「一帯の土には津波が運んできた大量の石が混ざり、土壌自体も塩害を受けていて、そのままでは果樹栽培に適しませんでした。このため約1年をかけ、延べ7000人の社員が作業に入って土地を整備し、専門家の助言のもとで選んだ潮風に強い果樹を定植していきました」

作業には、ホテルメトロポリタン仙台のスタッフも各セクションから参加した。コロナ禍でホテルの営業が低迷していた時期でもあり、「みなさん熱心に関わってくれました。改めて農業の魅力に気づいたと話してくれた人もいます」と菅原さん。

果樹は生き物であるため、気候の影響を受けて収穫時期がずれるなど、予測がつかないことも多い。それでも果樹園は徐々に形になっていき、震災から10年となる2021年3月、晴れて「JRフルーツパーク仙台あらはま」が開業した。年間いつでも旬のフルーツの摘み取りができる、体験型の観光果樹園である。

1年を通してさまざまな果物の摘み取りができる「JRフルーツパーク仙台あらはま」。
1年を通してさまざまな果物の摘み取りができる「JRフルーツパーク仙台あらはま」。

育てているのは、いちご、ブルーベリー、スグリ、いちじく、梨、ぶどう、りんご、キウイの8品目、150種以上。新鮮な果物や野菜が購入できる直売所「あらはまマルシェ」、ホテルメトロポリタン仙台のシェフが監修する「カフェ・レストランLes Pommes(レポム)」、果物の加工体験や料理教室としても利用できる「あらはまキッチン」も併設する。

フルーツパークの存在は、テレビCM、SNS、口コミなどを通じて評判となり、来場者は2024年3月時点で36万人を突破。個人客のほか、県内外からの学童等の教育旅行64団体(約2000名)、台湾をはじめとするインバウンド30団体(約500名)が訪れている。

その魅力について菅原さんは、「いつ訪れても必ず何かしらの果物狩りができて、お客様の期待を裏切らないことが、この施設の強みだと思います。仙台市の中心部から、車で30分という地の利の良さは言わずもがなですが」と話してくれた。

地域の発展とインバウンド誘致に高まる期待

東北の経済振興に向け、観光コンテンツの拡充と観光流動の拡大に貢献したい。そのためにも、東北が世界に誇れる施設をつくりたい。周辺事業者と連携し、エリア活性化と震災の記憶継承に役立ちたい──。

取り組みの根底には、地元企業としての復興に向けた強い思いがあるが、小さなきっかけを逃さず、さらなるSDGsや社会貢献活動につなげている点も印象的だ。

例えば、果物の生産から加工、流通・販売までを行う「六次化(*)」。余った果物や規格外の果物を使って、ドリンク、パン、スイーツ、コンフィチュールなどをつくり、ホテルメトロポリタン仙台で提供するので、フードロス対策にもつながっている。

(*)六次化:一次、二次、三次産業を融合させ、新しい産業を創出する取り組み。六次産業化ともいう。

ホテルのラウンジではフルーツパークの果物を使ったデザートやドリンクが楽しめる(メニューは季節ごとに異なる)。

食育の観点からは、学校給食へのフルーツの提供や、学童の遠足の受け入れにも意欲的。フルーツパークを訪れる人に対しては、震災前の荒浜の様子、津波被害や復興の状況などを伝える活動を続けている。さらに自社の産物だけでなく、近隣農家が生産した作物やタマゴなどをレストランで使用したり、直売所で販売したりと、地元の生産者との連携も進む。

観光誘致については東北全体の活性化を視野に、ホテルのセールスチームと、海外戦略チームが主体となって、各種プロモーションを展開。おいしくて種類豊富な日本の果物はインバウンド客にも大好評だ。フルーツパーク、ホテル、ショッピングをパッケージとして知ってもらえるよう、セールスチームは台湾やタイなどの旅行博にも足を運び、情報発信に努めている。

いちご狩りを楽しむ台湾からのお客様。
いちご狩りを楽しむ台湾からのお客様。

昨年12月、隣接する土地での第二期開発の承認が下り、果樹園はおよそ21ヘクタールに拡張されることが決まった。2027年には、名実ともに日本一の規模のフルーツパークが、荒浜に誕生することになる。

「果樹の栽培量や収量が増え、新品目の栽培も始まる予定です。マーケットやフードエリアを新設し、お客様により楽しんでいただける施設づくりを目指したい」(菅原さん)

「復興の象徴」としてスタートしたフルーツパーク。それを東北への集客や観光客の回遊の起点として、大きく飛躍させることが次なる目標だ。

取材・文/田中洋子
(2024 4/5/6 Vol. 747)

ホテルメトロポリタン仙台(公式サイト)
https://sendai.metropolitan.jp