完全なる男女兼用、シェア制のユニフォーム
メズマライジング(mesmerizing=魔法をかけるように、人々を魅了する)という言葉をホテル名の由縁とするメズム東京、オートグラフ コレクション。今回、優秀賞に輝いた理由は、五感を刺激するスタイリッシュな空間で、イキイキと働くスタッフのユニフォーム(制服)にある。総支配人の生沼久さんはこう語る。
「ホテル全体を舞台に見立て、スタッフを『タレント』と呼んでいますが、彼らが身を包むのは、男女を問わず、一つのサイズで幅広い体格の人が着用でき、着る人によって異なる雰囲気や表情を見せるユニセックスデザインのユニフォームです」
黒を基調とした、クールな「東京モードスタイル」を体現したユニフォームは、ヨウジヤマモト社のファッションブランドでジェンダーレスラインを展開するY’s BANG ON!(ワイズ バング オン)とのコラボレーション。S・M・Lの三種類があり、スタッフ全員でシェアしている。スタッフは、それぞれ採寸した制服を与えられるのではなく、クリーニングされたユニフォームの中から自分に合うサイズを選ぶスタイルだ。
「世界的なファッションデザイナーとして活躍されている山本耀司さんのデザインは、もともとジェンダーの壁を超えていらっしゃいます。私どもの『男性/女性ではなく、一人のヒトとしてお客様に向き合うユニフォームがほしい』という考え方と合致し、このコラボレーションが実現しました」(生沼さん)
一般的に、ホテルで使われている制服には、基本的に男性/女性用の区別がある。女性向けにパンツスタイルを導入しても、それは女性の骨格に合わせたパンツを用意しているだけで、男性と兼用はしない。つまり、厳密にはユニセックス(男女兼用)とは言えないと生沼さんは話す。
「メズム東京では『スターサービス』という宿泊と料飲の垣根のないゲストに寄り添ったシームレスなサービスを提供しています。タレントはエントランスやフロントでお客様をお迎えしますし、レストランでもサービスを行います。あえて区分を設けず、いろいろな業務をこなす働き方を考えると、統一したユニフォームが私たちのホテルらしいのです」
特筆すべきは、SDGsのジェンダーレス化だけを意識して取り組んだわけではないという点だ。「東京モード」を体現するクールなホテルというコンセプト、ホテルという多様な人々が集う場、一人のヒトとしてお客様に対しホスピタリティの心を表現する働き方……。そうした諸々が、自然に「ジェンダーレスのユニフォーム」に行きついたのだ。
「全体にゆったりしているので、着心地がよく、動きやすいのが特徴です。また、体型を強調しないスタイルなので、自分の体型が気になる人も、LGBTQ+(性的少数者)の悩みを抱えている人も着やすくなっています。みんな、制服として『着せられている』のではなく、袖を折ったり裾を絞ったり、『自分なりに着こなす』ことを考えています」(生沼さん)
お客様の反応も上々。海外のお客様や、ファッションに興味関心が高いお客様をはじめとして、「働いている人がカッコイイ」「同じユニフォームなのに、一人ひとり個性的に着こなしている」と評判だ。
LGBTQ+の人々への理解を深めたい
近年、ジェンダーについては、日本でも社会問題として取り上げられることが増え、意識を変えていかなければならない転換期にある。
メズム東京、オートグラフコレクションでは、同性パートナー婚に対する制度を整え、研修会も実施。LGBTQ+の人々への理解を深めている。生沼さんはこう話す。
「いくら制度を整えても、理解が進まなければ意味がありません。まずは、LGBTQ+の人は遠い存在ではなく、必ず身近にもいると知ってもらうことから始めています」
LGBTQ+の人の割合は10%程度と言われている。日本人の血液型におけるAB型の割合とほぼ同じだから、お客様はもちろん、一緒に働く仲間の中にいても不思議ではない。「ダイバーシティ(多様性)の時代、誰もがイキイキと働けるように、職場環境を整えていくのは当たり前のことです」(生沼さん)
研修では、LGBTQ+の人への理解を深め、同僚や部下にカミングアウトされた場合の受け止め方なども学ぶ。独自に始めた研修は、本社にも高く評価され、今や研修はグループホテル全体に広がっている。
性別に関係なく、一人ひとりが心豊かに過ごし、みんなが仲良くできる社会をつくっていきたい──。多くの人が集うホテルだからこそ、社会的なメッセージを発信していく力がある。「当たり前」が真の「当たり前」になるように。メズム東京、オートグラフコレクションの挑戦と進化は続いていく。
取材・文/ひだいますみ
(2024 4/5/6 Vol. 747)
メズム東京、オートグラフ コレクション(公式サイト)
https://www.mesm.jp