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4つの重点テーマで活動を展開
東京都港区にあるパークホテル東京では、2020年に「SDGs宣言」を発表。「パートナーシップ/コミュニティ」「働きやすい職場づくり」「環境への取り組み」「健康と安全」の4つの重点テーマに基づき、さまざまな施策を進めてきた。
「宣言の作成にあたっては、まずは各部署の責任者が集まり、その時点でやれていること、やれていないこと、これから取り組むべきことを可視化しました」。そう振り返るのは、同ホテルブランド戦略促進課の藤川欣智氏。以前から始めていた取り組みを重点テーマに紐づけて整理するとともに、新しい取り組みも積極的に取り入れ、活動を充実させてきたという。
例えば、「環境への取り組み」の一つが、従業員の名刺素材を「バナナペーパー」に変更したこと。アフリカ産バナナ繊維(アフリカ・ザンビアのオーガニックバナナ畑で通常捨てられる茎の繊維)を利用したフェアトレード認証紙で、環境にやさしいだけでなく現地の雇用創出にもつながる素材だという。
また最近では、現場スタッフから出たアイデアをヒントに、以前は使い捨てだった紙製キーケースにアップサイクルデザインを導入。チェックアウト後は切り取ってポストカードとして再利用できるようにした。「旅の思い出をご家族、ご友人に送っていただくことで、ホテルのプロモーションにもつながると考えています」と藤川氏は話す。


アーティスト支援を通じた共通価値の創造を
さらに、取り組みの大きな柱となっているのが「アート」だ。同ホテルでは2011年から「日本の美意識が体感できる時空間」をコンセプトに、アートを軸に据えたリブランディングを開始。館内にアート作品を展示・販売するギャラリースペースを設置し、日本の伝統工芸を含むアートの魅力を発信してきた。
「私たちのホテルが社会にどう貢献できるかを考えたときにも、やはり『アート』は外せない。アーティストの活動支援などを通じて共通価値の創造(CSV)に取り組むことが、私たちの役割の一つではないかと考えました」と藤川氏は言う。
なかでも力を入れてきたのが、障がいのあるアーティストへの活動支援だ。2018年から、一般社団法人障がい者自立推進機構 パラリンアート運営事務局と協力し、世界中の障がい者アーティスト作品の展示・購入スペースを設けている。パラリンアートの抱える課題として、「常設の展示会場がなく、作品を披露する場が限られている」という話を耳にしたことがきっかけになった。
「アーティストご本人はもちろん、その家族の方たちが展示の様子をうれしそうにご覧になっているのを見たときは感激しました。私を含め従業員にとっても、障がいのある方を以前よりも身近に感じるきっかけになっていると思います」
さらに、パラリンアート主催の世界大会では協力企業として、授賞式に来日した大会入賞者への宿泊を提供。そこから、世界各地のアーティストとの新たなつながりも生まれてきているという。


また、アーティストに一定期間ホテルに滞在してもらい、客室の壁紙などに作品を作り上げてもらう「アーティスト・イン・レジデンス」活動も2012年から展開している。
「現在、41の客室が作品を備えた『アーティストルーム』となっていますが、宿泊されたお客様からは『他に2つとない部屋だけに、自分だけの空間だと感じられる』と好評です」

ゲストの旅を、サステナブルなものに
こうしたアートを通じた取り組み、SDGs実現に向けた取り組みは、経営理念である「人をもてなす道を究める」にもつながるものだと藤川氏は言う。
「当ホテルには北米や欧州、豪州からのお客様が多いのですが、こうした国々ではサステナビリティへの関心が高く、SDGsへの取り組みもすでに当たり前のものになっている。その『当たり前』を、しっかりと提供できるホテルであること、また私たちのホテルに宿泊することでサステナビリティに貢献できると感じていただくことも、大事なおもてなしだと考えています」
ゲストの期待に応え、楽しく快適なだけでなくサステナブルな旅を提供していくために、ホテルができることは何か。その思いが、すべての取り組みの根幹にある。
取材・文/仲藤里美
(2024 4/5/6 Vol. 747)
パークホテル東京(公式サイト)
https://parkhoteltokyo.com/ja/