日本ホテル協会 第5回社会的貢献会長表彰 優秀賞

お客様とともに取り組む
「気づけばSDGs」

ホテルニューオータニ

環境問題への取り組みを積極的に発信

都心にありながら、2万坪の敷地に日本庭園を有するホテルニューオータニ。家族団らんから国際会議まで、毎日、国内外からさまざまなゲストを迎えている。今回は、環境問題に独自の視点で取り組む「気づけばSDGs」活動が注目され、栄誉を得た。子どもたちの食育体験イベントやシェフによる実演ライブ配信など、ホテル側の取り組みを広く発信し、お客様とともに取り組む姿勢が高く評価されたのだ。

「ホテルはたくさんの人が集まる場所ですから、どうしても大量のゴミが出ますし、エネルギーも使います。だからこそ、ホテルがリサイクルや食品ロスなどの環境問題に真剣に取り組み、社会に貢献することが大切だと考えます」(マネージメントサービス部マネージメントサービス課 有上未紗さん、以下同)

実は、ホテルニューオータニは、まだSDGsという言葉がなかった1990年代からコンポストを導入したり、各部門からスタッフが集まる環境省エネ委員会を立ち上げたり、いち早く環境問題に取り組んできた。しかし、それを広く発信することはなかった。ホテルの「売り」として喧伝するのではなく、自らの社会的責任として粛々と行ってきたからだ。「そんな裏側を評価されたのは、うれしい限りです」

コンポスト設備によって、野菜クズ→堆肥→その堆肥で育てた野菜や米を従業員食堂で活用、というサイクルを確立している。
コンポスト設備によって、野菜クズ→堆肥→その堆肥で育てた野菜や米を従業員食堂で活用、というサイクルを確立している。

しかし、SDGsという言葉が浸透し、人々の関心や理解も深まってきた今、ホテルがゲストとともに取り組んでいきたいと、ホテルニューオータニは積極的に情報発信する方向に舵を切った。

その取り組みの一つが、子どもへの食育活動である。夏のイベントとして、食育セミナーやコンポスト施設の見学、持続可能な食材を使ったメニュー開発のワークショップを実施。小学生から高校生までの親子が参加した。

「目隠しをして卵と代替卵の食べ比べをしたとき、『どっちもおいしい』という感想がありました。子どもは先入観がない分、『卵とは別物だけど、これはこれでおいしい』と、素直に受け入れてくれたようです」

子どもたちの作ったレシピを従業員食堂で提供したところ、こちらも好評。レストランではゲスト用に代替食材のメニューを導入しているものの、スタッフは食べる機会がなかなかなかったため、「食べてみて、こんなにおいしいものだとは驚いた」との声が上がったという。

ワークショップに参加した子どもたちのアイデア(左)から従業員食堂の新メニュー「未来のカルボナーラ」(右)が生まれた。

世界の人口増加に伴い、今や、食糧問題は切実な課題だ。従来の食材のみにこだわるのではなく、代替食材をいかにおいしく味わうか。子どもたちとホテルのスタッフがその体験や知見を共有し、未来について考えることこそ、お客様とともに取り組むSDGs活動の真髄である。

また、このイベントは、ホテルニューオータニ単独ではなく、食品メーカー数社とコラボして開催している点でも、社会的な意義がある。

「ホテルは、人々のつながりや交流を生む、公共性が高い場です。子どもたちにとっては食について学ぶ場、メーカーの方には消費者の声に直接触れられる場を提供することは、ホテルだからこそできる社会貢献の一つだと思います」

人気のシェフの動画配信と出前授業

シェフによる、フードロス削減メニューの動画配信も注目を集めている。一流ホテルのシェフが腕をふるうだけあって、残り野菜を使ったとは思えない本格的なコンソメスープ、黄えんどう豆の皮まで使ったパスタなど、どれも食べてみたくなる、作ってみたくなる料理ばかりだ。

「もともと、シェフの動画配信は、コロナ禍におけるお客様とのコミュニケーションの一つでした。年に一度、地球環境のことを考えるアースデイにはフードロス削減も視野に入れて、インスタグラムで配信しています」

シェフが腕をふるう動画は、「なるほど」「真似してみました」と大人気。

さらに、積極的な取り組みを加速するために、学校の先生の見学会や研修会を行ったり、小学校への出前授業も検討したりしている。

SDGsの輪を確実に広げていくために、ホテルができること。今、ホテルニューオータニが注目している食材の一つが、「おかそだちサーモン」だ。優れた水の循環技術によって、海ではなく陸(おか)の養殖場で育ったサーモンは、環境負荷が少ない。すでにレストランのメニューでも扱っている食材だが、これを広く知ってもらいたいと考えている。

「食に関する活動は、ホテルニューオータニのSDGsの大きな柱です。ほかにも、アメニティなども、環境によいものがあれば更新していきたいと考えています」

今後、SDGsに関心が深い海外からのゲストに向けた体験イベントにも注力したいというホテルニューオータニ。その活動には、社会の一員として、「人々が集う一つの小さなコミュニティ(街)」であるホテルという場の在り方として、みんなで楽しみながら環境問題に向き合いたいという思いがあふれている。

取材・文/ひだいますみ
(2024 4/5/6 Vol. 747)

ホテルニューオータニ(公式サイト)
https://www.newotani.co.jp/tokyo/