日本ホテル協会 第5回社会的貢献会長表彰 優秀賞

SDGsの取り組みを介して届ける
人、社会、環境へのホスピタリティ

富士屋ホテルズ&リゾーツ

地域に根差したホテルのSDGs

富士屋ホテル創業者の山口仙之助氏は、明治の日本でいち早く国際観光の重要性に着目していた。と同時に、道路を整備し、水力発電で地域に電力を供給するなど、箱根の発展に力を尽くした人物でもあった。

「富士屋ホテル自体も明治 11 年の創業以来、『至誠』を社是に国内外のお客様をお迎えするとともに、地元に根差した企業として歩んできました」

そう経営企画部の原諒介氏が言うように、富士屋ホテルのSDGsには、箱根の町や環境を大切にしてきた創業者のDNAが息づいている。

2022年、SDGsを時代に即した形で実践していくために、富士屋ホテルは社長を委員長とするSDGs推進委員会を立ち上げた。SDGsに関する方針や取り組みを決定し、全社体制でさまざまな活動を展開している。

例えば、2023 年 7 月 22 日、富士屋ホテル仙石ゴルフコースでは、同社初のバイオマスボイラー2基が稼働を開始した。産出される8000リットルの温水は、施設内の浴場や厨房で利用されている。

「ちょうど重油ボイラーの交換時期を迎え、次も重油ボイラーか、あるいはガスか、バイオマスかと検討したのですが、これからは『何で作ったお湯か』が、重要になる時代だと考えました。やはりできるだけクリーンなエネルギーを使い、CO2削減に貢献したいと、オーストリア製のバイオマスボイラーを採用した次第です」と原氏。

結果、年間およそ285トンのCO2削減が可能となった。バイオマスボイラーはイニシャルコストこそガスボイラーの約3倍だが、燃料はウッドチップなので、ランニングコストは約半分。イニシャルコストも、およそ 10 年で回収できるという。

バイオマス燃料に転換することで化石エネルギーに起因するCO2のほぼすべてを削減することが可能。
バイオマス燃料に転換することで化石エネルギーに起因するCO2のほぼすべてを削減することが可能。

社員も地元の人も利用する「富士屋ホテル保育園」

取り組みの中には、従業員のニーズから生まれたものもある。2017年10月に開園した「富士屋ホテル保育園」はその好例だろう。

ホテルの週末・祝日は、平日以上に忙しい。しかし、一般の保育園は休みであることが多い。特に0~2歳の乳幼児の場合は、預かってくれる保育園そのものが近くにない。小さい子どもを抱える社員は、土日祝日は働きたくても働けず、それを補うために出勤する社員の負担も見過ごせなかった。

ホテルや旅館が多い土地柄を考えると、自社の社員以外にも困っている人は少なくないはずだ。こうして地元の人も利用できる、年中無休の企業主導型「富士屋ホテル保育園」の構想がスタートした。

開園から6年、園の運営は外部に委託しているが、認可外保育園ながら、職員数や各種ルールは認可保育園に準じる手厚い体制で、ホテルからも社員が1名常駐している。

「保育園は毎朝7時半から開いています。ホテルシフトに対応可能で、夜も8時、9時まで子どもを預けることができます」

利用者は、社員と地域の人が半々とのことで、社内外の子育て世代におおいに喜ばれている。

箱根町全体が子育て世代にやさしい環境となることを願って開園した富士屋ホテル保育園。
箱根町全体が子育て世代にやさしい環境となることを願って開園した富士屋ホテル保育園。

「唯一無二」を、生きた遺産として未来に伝えるために

ところで、2018年4月からの約2年間、富士屋ホテルが休館していたことを記憶している方も少なくないだろう。150年近いその歴史の中で、ホテルは初めて全面的な大改修工事に臨んだのである。

富士屋ホテルは、明治・大正・昭和の各時代に建設された建築群で構成されている。その多くが国の登録有形文化財で、なおかつ現役の宿泊施設として利用されているのだから、極めて稀有な存在だ。今回の改修事業ではその希少性を再認識して、『唯一無二を未来に紡ぐ』をキーコンセプトに定めた。

それもただ過去を継承するのではなく、「文化財的価値の確実な継承」×「ホスピタリティの高いサービスの提供」=「リビングヘリテージ(生きた遺産)」との考え方を、はっきりと打ち出した。文化財の保存と安全性確保の両立にとどまらず、ホテルとしての機能性や快適さも進化させることで、日本を代表するクラシックホテルを、確実に未来につなげていこうというのである。

実際の工事では、ひとつひとつの建物や施設の雰囲気、意匠、歴史的価値などを損なわないよう、細心の注意が払われた。

「例えば耐震補強の部材は、外から見えないように床や壁、天井の内部に配置しました。メインダイニングルームの天井画は、159枚すべてを外して、1枚ずつ洗浄と修復を行い、家具調度も職人の手による修復や張替えを経て、その大半を再使用しています」(原氏)

メインダイニングの内装は保存再生してリニューアル。
メインダイニングの内装は保存再生してリニューアル。

2020 年 7 月に、改修後のグランドオープンを迎えた際は、「雰囲気が変わっていなくて安心した」「正面玄関からロビーに上がるのに、エレベーターが使えるようになってうれしい」など、常連のお客様の歓迎の声がたくさん聞かれたという。

原氏はここ数年の取り組みについて、「SDGs推進委員会ができ、会社の方針や取り組みを、社内に向けて明確に発信するようになったことで、SDGsに対する社員の意識が向上した」と振り返る。ワインの空き瓶で作ったクリスマスツリーや、ビンで水を提供する試みなど、社員の身近なアイデアも少しずつ形になってきた。会社全体としては、2030年までに2013年度比でCO2の排出量30%減を目指し、引き続きカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めていくとのことだ。

取材・文/田中洋子
(2024 4/5/6 Vol. 747)

富士屋ホテル(公式サイト)
https://www.fujiyahotel.jp