日本ホテル協会 第5回社会的貢献会長表彰 優秀賞

地域のために、地域とともに
「有難き、ホテル。」が展開するSDGs

SHIROYAMA HOTEL kagoshima

鹿児島の人々に支えられた60年

城山は、今も昔も鹿児島の人々の憩いの森。郷土の英雄、西郷隆盛の終焉の地としても大切にされている。その城山にホテルの建設計画がもちあがったとき、反対の声は大きかった。SHIROYAMA HOTEL kagoshima(以下、SHIROYAMA HOTEL)には、そうした試練と誠実に向き合い、地元に受け入れられてきた歴史がある。

「今では、『SHIROYAMA HOTELは鹿児島のシンボルだね』と言ってくださる方もたくさんいらっしゃるんです」と、SDGs推進室人材開発部の安川あかねさん。
「だから城山の森もホテルも、私たちだけのものではなく、県民みなさんのものなのです。それをお預かりしているのですから、大切に守り活かしていくことが、私たちの使命だと思っています」

SHIROYAMA HOTEL は、昨年で開業60周年を迎えた。そのときの新聞広告には、城山から望む桜島の日の出を描いた水彩画とともに、「有難き、ホテル。」という言葉が添えられた。地元の人々に支えられた60年間の歩みこそ、「滅多にない幸いなこと」なのだという思いが、そこに込められている。地域貢献の精神も、こうした歴史の中で自然と培われてきたものだ。

開業60周年を記念して出稿した新聞広告。桜島の水彩画に俵万智さんの短歌を添えて。

「自分ごと」となったSDGsを、地域に広げる

国連でSDGsへの取り組みが採択された4年後の2019年、SHIROYAMA HOTELはSDGs宣言を行った。安川さんはSDGs推進室で、ホテル全体の取り組みを牽引する立場となったが、当時はほとんどの人にとって「エスディージーズ」という言葉自体が耳慣れず、「持続可能な開発目標」と言われても、ピンとこないというのが実状だった。

「私自身、SDGsって何だか壮大な話だな、という印象でした。17の目標も大きなものばかりなので、いったい自分たちに何ができるんだろうと思いました。最初はずいぶん本を読んで勉強しましたね」

そんななか、ホテルが最優先したのは、「まず従業員がSDGsを自分ごとにする」こと。そのための仕組みの一環として、「城山SDGsアワード」が設けられ、社内横断23チームが入賞を目指し、身近なところから手探りで活動に取り組み始めた。

消費期限が近づいたパンを冷凍して県内76カ所の子ども食堂に寄贈する活動や、回収したペットボトルのキャップをワクチン寄付に生かす活動、植物残渣を堆肥化して森に返す活動など、約1年にわたる多彩な取り組みが社内啓蒙に奏功した。

22年3月、これらの活動をはじめ、環境負荷の少ない空調冷凍機などへの切り替えやバリアフリー化といったSDGsの観点を取り入れた館内改装、エコマークアワードの優秀賞受賞、自治体が進めるSDGs活動への参画など、さまざまな取り組みが総合的に評価され、日本ホテル協会の「社会的貢献会長表彰」で初の優秀賞に輝いた。

「この頃には、『SDGsを自分ごとに』という最初の目標はひとまず達成できたと思いました。小さな実践に取り組むうち、『これは廃棄するより何かに活用できないか』など、みんなが自然とSDGsの観点で物事を考えるようになってきたのです」(安川さん)

余剰パンの寄贈で始まった子ども食堂の支援活動には、実は続きがある。その後、災害用の備蓄米、ミネラルウォーター、使い捨てカイロを加えて、拡大していったのだ。カイロについては、使用後再びホテルが回収し、大阪湾の水質改善プロジェクトに寄付するという、派生的な取り組みにもつながった。学校や地元の住民を巻き込んで、今も子ども食堂支援は続いている。

周囲との協働で、多様な取り組みを継続中

2023年度は、ホテルの中だけにとどまらず、地元の農家、企業、教育機関などと、本格的な連携を開始した年となった。

ホテルの「城山ブルワリー」では、クラフトビールの製造残滓を二次使用し、畜産業者や養鰻業者と協力して、牛や鰻を育てて利用する流れをつくった。農家とのタイアップで、鹿児島の気候や風土が育てた、特色ある「かごしま伝統野菜(*)」の復活にも挑戦している。

(*)かごしま伝統野菜:桜島大根や安納芋など、その土地ならではの特色を持った野菜のこと。その多くが、生産者の高齢化や後継者不足により絶滅危機となっている。

脱炭素に関しては、カーボンニュートラル都市ガスを導入。また、ホテルで排出されるCO₂を金額に換算してグリーン電力を購入する、「CO₂ゼロオプション」の提供を開始した。このほか、九州大学や県内漁協と連携し、環境再生とカーボンニュートラルを同時に実現するプロジェクトにも参加している。

鹿児島県山川町漁業協同組合が主催する「ブルーカーボンプロジェクト推進協議会」にも参画。藻場の再生を通じてカーボンニュートラル実現に取り組む。
鹿児島県山川町漁業協同組合が主催する「ブルーカーボンプロジェクト推進協議会」にも参画。藻場の再生を通じてカーボンニュートラル実現に取り組む。

人と接することが仕事のホテルには、子どもや若い人材の育成面でも、貢献できることが少なくない。昨年の夏休みには、県内の子ども食堂各所から120人の子どもたちを朝食バイキングに招待し、その後、SDGs講座を開催した。

県内の教育機関にホテル関連の書籍を寄贈し、フリースペースを利用する中高生に職場見学の機会を提供するなど、若い世代にホテル産業への関心をもってもらうきっかけづくりも進めている。

ミツバチについて学び、ハチミツやミツロウを使ったワークショップを行う「ミツバチプロジェクト」は、2020年には高校生が対象だった。しかし23年度は、高校生・大学生が小学生の学びをアシストする形で実施している。年長者が年少者を教える薩摩の伝統で、明治維新の人づくりの原動力ともなった「郷中教育」。その要素を取り入れた、鹿児島らしい取り組みといえるだろう。

地域との連携の一環としては、創業者の出身地である徳之島町が主催する「星降るレストラン」のイベントをプロデュース。県立博物館とは、天然記念物である城山の自然情報の共有や、研修、自然保護活動などについて協働する。今後は県内各地の特産品の商品化なども視野に、地元のホテルとして、地域の活性化や旅行の回遊化にも尽力していきたいとのことだ。

SHIROYAMA HOTELの社会貢献活動は、着実に地域に周知され、受け入れられてきた。
「最近は、環境や食品ロス対策に関する自治体などの啓発イベントに、パネリストとして呼んでいただく機会も増えました。私たちの取り組みが誰かの参考になり、県全体のSDGsの底上げに貢献できれば光栄です」(安川さん)

県内の学校に寄付した書籍。感染症対策で使用していたアクリル板を再利用したボックスに収めて。
県内の学校に寄付した書籍。感染症対策で使用していたアクリル板を再利用したボックスに収めて。
「ミツバチプロジェクト」に参加した小学生や高校・大学生がラベルをデザインした「城山のはちみつ」を販売。
「ミツバチプロジェクト」に参加した小学生や高校・大学生がラベルをデザインした「城山のはちみつ」を販売。

取材・文/田中洋子
(2024 4/5/6 Vol. 747)

SHIROYAMA HOTEL kagoshima(公式サイト)
https://www.shiroyama-g.co.jp