第17回「Hotel-Women Forum 2025」が、2月4日(火)、東京ビッグサイトで開催された。第一部はリーガロイヤルホテルの中川智子総支配人による講演、第二部では4名のホテルウーマンを迎えてのワークショップが行われた。
第一部:講演
「キャリアアップとワークライフバランスを両立するには」中川智子氏
中川智子さんがリーガロイヤルホテルに入社したのは1984年の春。男女雇用機会均等法の施行を2年後に控え、女性が活躍する社会に向けて日本全体が動き始めた頃だった。
「それまでホテルに入社した新卒女性はフロントに配属され、その後3年ほどで寿退社をしてしまうことが多かったのです。しかし私の入社年度くらいから、女性社員もさまざまな部署に配属されるようになっていきました」
やがて中川さんは、宿泊部からセールス部に異動し、セールスレディの第一号に。そして2011年、会社は「女性管理職をつくる」という明確な意思のもと、重要な宿泊部門のトップに中川さんを抜擢。重責に圧倒される彼女に、当時の社長が言った。
「入社試験では、男性を凌駕するほど優秀な女性が多い。彼女たちが家庭を持っても仕事を続けられる、そんなステージを作ってください」
その言葉に励まされながら10年の時が経ち、総支配人となった中川さん。「会社はこうして、世の中の動きとともに変わっていくのです」と、会場の若きホテルウーマンに向けて語りかけた。

3つのフェイズで、もっと働きやすい環境を
今の日本では原則として、男性も女性も対等の条件で働けることになっている。それでもまだ、早期退職者は女性に多い。
「私たちは女性が長く働ける環境を整えなくてはなりません。2023年の時点で9.5%だった女性管理職の比率も、2026年までに12%に引き上げたい。ホテルで働く人たちの背景はかつてないほど多様です。その人たちを融合して、パフォーマンスを最大化することが重要なのです」と中川さん。
DE&Iという大きな枠組みも踏まえ、リーガロイヤルホテルは3つのフェイズを通して、女性のキャリアアップとワークライフバランスに資する取り組みを続けてきた。
FASE1:仕事免除型支援/女性支援に向けた初期の取り組み
まず着手したのは、出産後2年間取得できる育児休暇、短時間勤務、有給の看護休暇などを整備すること。子育てが大変な時期は仕事を免除しようという支援である。だが当の女性たちからは、「復帰したからには、しっかり働きたい。重要な仕事も任せてほしい。キャリアアップもしたいし管理職にも挑戦したい」と、キャリアを重視する声があがった。やりがいを求め、転職してしまうケースもあったという。
FASE2:キャリア主導型支援/有用な人材としての期待を伝える
FASE1で得た教訓をもとに、次の段階ではよりキャリア重視の方向に舵を切った。
1)育休中の社員懇親会を通じ、復帰を待望される大切な人材だと知ってもらう
2014年から年1回、育児休職中の社員が子ども連れで参加する懇親会を開催。職場や仕事に関する情報をアップデートし、仕事に復帰した女性社員の話を聞く機会とした。上司も必ず参加して、「会社は皆さんを必要としている」というトップメッセージをしっかり伝えるよう努めた。
2)RWC(ロイヤルウィメンズ・コミッティー)で、小さな課題を発見して改善する
女性が多い職場から代表が集まり、人事担当者や総支配人も参加して、女性社員が抱える問題を話し合う会議を設置。アンコンシャス・バイアス(女性に対する思い込みや無意識の偏見)、ライフイベントの壁(結婚・出産とキャリアの両立)、キャリアビジョンが見えない(ロールモデルとなる女性管理職がいない)といった課題があぶり出され、会社全体で解決策を考えていった。中川さんは言葉を続ける。
「そうするうちに見えてきたのが、家事育児に対する夫の低コミットが、女性のキャリアアップのボトルネックになっているということでした。3つめのフェイズは、その視点を反映しています」
FASE3:男性の意識変革が家庭と仕事の両立を支える
家庭と仕事の両立は家族ぐるみで考える必要がある。リーガロイヤルホテルは「ファミリーシート」を作って、出産を控えた女性スタッフに配り、家事や育児の分担について、夫婦や家族で話し合うきっかけづくりに乗り出した。復職に際しては、どのようなサポートを会社に望むかを書いてもらい、それをもとにフォローアップ面接を行っている。
「女性の復職には家族のサポートが不可欠ですが、私たちのホテルでも育児休暇を取る男性はほとんどいませんでした。ところが昨年初めて、1カ月の育休を取る男性が出てきたのです」
今はなんと、ほぼ100パーセントの男性社員が、育休を取るホテルもある。「世の中の流れは確実に変わってきている」と話す中川さんの表情も明るい。
「先日、夫婦で当社に勤務するスタッフから、6カ月間の育休を2人で取りたいという申し出がありました。私が出産した頃は14週間の産休だけで、育休などは存在もしなかった。そう思うと隔世の感がありますが、道を拓いたのは先輩たちの声です。これからの女性ホテリエが、人生でもキャリアでももっと輝けるように、今度はぜひ皆さんの声を聞かせてください」
第二部:ワークショップ
「仕事も人生も輝かせるには」
第二部では、今年も4人のホテルウーマンが登壇。モデレーターの阿部マリ子さんが示すトピックスを中心に、今の仕事、家庭と仕事の両立をめぐる課題や工夫、キャリアアップについて語り合った。
【パネリスト】

パレスホテル東京
総支配人室ゲストリレーションズ課アシスタントマネジャー
小川 由季さん

ホテルメトロポリタン エドモント
マーケティング部販売促進課課長
豊田 知子さん

京王プラザホテル
宿泊部フロント副支配人
篠辺知里さん

富士屋ホテル
管理本部総務人事部係長
髙橋泰子さん
【モデレーター】

Spice up Weddings 代表
実践女子大学短期大学部非常勤講師
阿部マリ子さん
Q1 ここ数年を振り返って、うまくいっていることは何ですか?
小川 お客様や職場の皆さんとの関係です。私は今のホテルを一度退職して、その後、また戻ったのですが、温かく迎えていただきました。3年経った今では、声をかけてくださるお客様も増え、楽しく仕事をしています。
豊田 5人のチームでパワフルに動けています。メンバーは、若手から中堅までいろいろな年代がいるので、個人的にも視野が広がり心強く思っております。
篠辺 昨年度、長女の「小1の壁」(*1)で休職を考えるほど追い詰められたとき、「職場のことは心配せず、土日はお子さんと一緒に過ごしてあげて」と上司がその場で土日の出勤をすべて休みに変えてくれました。おかげで長女の精神状態も落ち着き、大変感謝しています。
髙橋 インバウンドが好調です。「インバウンド事業課」が新しくでき、各事業所でも海外セールスに力を入れています。DX推進で、総務人事の業務効率化も進んでいます。
Q2 うまくいっていないことはありますか?
髙橋 海外からの研修生の受け入れや、留学生採用には力を入れていますが、文化や習慣の違いから、現場で些細なトラブルが発生することがあります。
篠辺 外国籍スタッフの受け入れ体制には、弊社もまだ改善の余地があります。外国籍スタッフの座談会の開催やメンターを付けることなど、一つずつ取り組んでいます。
豊田 自立した人たちが集まるチームでは、気持ちを一つにするために、密なコミュニケーションが不可欠だと感じています。広報業務に関しては、コロナで希薄になった外部編集者や制作会社とのネットワークの再構築が急がれます。
小川 個人的には、若手社員をどう指導するかが課題です。タイミングもありますし、部署には自分よりも下の後輩がいないため、他部署の若手社員に一人ひとりつきっきりで教えるわけにもいかず、もどかしい気持ちです。

Q3 あなたの会社や部署では、何か新しいチャレンジに取り組んでいますか?
豊田 今年で開業40周年を迎え、ブランド価値をさらに高めようと1年かけて話し合ってきました。その集大成である記念プロジェクトが、この春のチャレンジです。
小川 ゲストリレーションズ課として、昨年末から毎月、社員向けのニュースレターを発行しています。「読んだよ」と言ってもらえるとうれしいですね。
髙橋 10年ぶりに人事制度を改定しました。「人を育てるための人事制度」をテーマに、賃金の底上げ、等級や役職の整理、評価制度などを見直して4月から運用します。
篠辺 フォーブストラベルガイドの星獲得を目指しています。人財戦略の見直しにも取り組んでおり、多様性の確保、コミュニケーションツールの活用、職場環境の改善などを進めています。
Q4 女性の活躍推進に関する会社の取り組みを教えてください。
小川 働きやすい環境を整えることには全社的に力を入れてきて、産休育休も定着しました。実際に活躍しているママさんは大勢いますし、やはり会社はもちろん、職場のメンバーの理解とサポートが大切なのだと思います。
髙橋 富士屋ホテルには企業主導型保育園があります。私も第二子を預けていました。朝早くから夜まで365日開所していて、シフトに合わせて利用できるので助かります。
篠辺 当ホテルでも女性管理職が増えました。女性は100%産休を取りますし、男性の育休も増えています。ただ私を含めて、時短や子どもの体調不良などで早退することを申し訳なく思う女性もいますから、そのあたりのサポートは必要ですね。
豊田 当社は女性が活躍しやすい土壌のようで、前にいたメトロポリタン川崎では、ほとんどの男性が育児休暇を取っていました。他の系列ホテルでは1年間の育休を取った社員もいたと聞いています。
Q5 仕事とプライベートを両立するために、何か工夫をしていますか?
髙橋 自分一人で頑張るのではなく、同じ会社に勤務する主人と、互いにシフトをやりくりして家のことをしています。小学生の子ども2人にも手伝ってもらっています。
豊田 夫と二人暮らしですが、夫の協力があって仕事を続けられています。休みの日はリフレッシュや、夫婦のコミュニケーションに当てています。
小川 週3回、夜にフラダンスを習っていて、休日もショー、イベント、ワークショップと忙しいです。スキマ時間で買い物をするなど、限られた時間内で計画的に動くことを意識しています。
篠辺 私は仕事でもプライベートでも、心穏やかに過ごせる状態が理想です。そのための工夫は、不満を捨てることと楽しみを見出すこと。例えば、通勤中の歩いている時間もマスクの下で口を動かして英語の勉強をしたりしています。




Q6 あなたがホテルで働き続ける理由は何ですか?
小川 一度ホテル業界を離れたぶん、接客業の楽しさや奥深さを感じます。自分の働きかけがお客様に喜びをもたらし、それが自分に返ってくる。こんな素敵な仕事はありません。
豊田 私は上司や仲間に恵まれたと思います。何かあっても、いつも仲間に救われてきました。だから続けられるのです。
篠辺 心身ともにお客様を豊かにして差し上げる、とても価値のある仕事だからです。人と関わるなかで気づくことも多く、常に成長できることも魅力です。
髙橋 2028年に150周年を迎える富士屋ホテルのスタッフとして、歴史をつないでいけるのは喜びです。誇りをもって続けていきます。
短い休憩を挟んだあと、第一部での気づき、仕事とプライベートの両立について会場とともに振り返り、今年のフォーラムは終了した。
*1 小1の壁
子どもを保育園に預けていたときは仕事と子育てが両立できていたのに、小学校に通い始めたとたん難しくなること。
取材・文/田中洋子 撮影/島崎信一
(2025 1/2/3 Vol. 750)