2024年9月3日・4日の両日、当協会会員ホテルを対象とするトップセミナーを京王プラザホテル(東京都新宿区)で開催しました。そのプログラムから芝浦工業大学デザイン工学部UXコース教授の原田曜平氏による講演の内容をレポートします。
なぜ「Z世代」が重要なのか
「Z世代」とは1990年代半ば〜2010年代初め生まれで、現在10〜20代の世代のことを指す。ホテル業界にとっても、今後社会の中心に出てくる彼らのニーズを把握することは喫緊の課題だといえるだろう。
『Z世代』の著書もある講師の原田曜平氏は、0歳から100歳以上まで、全ての日本人を世代ごとに「3つのグループ」に分けて解説するところから話を始めた。
まず第1グループは、戦争体験があり、若い頃テレビよりも映画に親しんで過ごした「戦前・戦中派からキネマ世代」。第2グループ「団塊世代からバブル世代」は、少なくとも思春期までは、日本経済が右肩上がりに成長している状況にあった世代。そしてそれと対照的に、厳しい低成長の時代の中で生きてきたのが、Z世代を含む第3グループ「団塊ジュニアからα世代」だ。
第3グループ、とりわけZ世代やその下のα世代は、少子化世代で「人数が少ない」ことが大きな特徴だ。それもあって、日本の多くの業界はこれまで、若い世代よりも中高年世代に焦点を合わせることが多かった。「でもそれも、これからは変えていかなくてはなりません」と原田氏は言い切った。
「Z世代は、人口は確かに少ないけれど、SNSを利用している人数は最も多い。情報を広げる上でキーになる世代です。さらに、人数の多い団塊ジュニア世代の子ども世代でもある。今は非常に仲の良い親子が多いし、親子セットで顧客として獲得するためにも、Z世代を引きつけることが非常に大事になってくるんです」
世代的な特徴は「チル&ミー」
では、そのZ世代にはどのような特徴があるのか。さまざまな調査を通じて見えてきたキーワードはまず「チル」だと原田氏は言う。英語の「Chill out」から来た言葉で、最近は若い世代を中心に「のんびり、マイペースでくつろぐ」といった意味で使われるようになっている。
「大学の数が増えたこともあって、受験戦争もそれほど厳しいわけではない。超人手不足の時代なので、就職も会社を選ばなければすぐに見つかる。彼らは、若者だというだけで希少価値があるということを理解しています。だから、ガツガツ必死に働いて大金を手に入れるよりも、あまり無理せずのんびり過ごすほうがいい、と考えるんです」
そうした傾向は、消費にも強く表れている。リラクゼーションドリンク、水たばこ、おしゃピク(おしゃれなピクニック)……そうした、「のんびりする」「まったりする」といった言葉で表現される商品や娯楽が、Z世代の間で人気を集めているのだという。
そして、もう一つの特徴が「物心ついたときからスマホを使っている」こと。ほぼすべてのSNSにおいて、利用者の大多数を占めるのはZ世代だ。一方で、テレビをほとんど見ない若者が多いこともあり、SNSや動画サイトに出てこないニュースについてはほとんど知られていないこともあるという。
「また、人数が少ないので周りの上の世代から気を使ってもらえる場面が多かったり、SNSで『いいね』をもらえるのが日常になっているからでしょう、おとなしそうに見えても自己承認欲求が強いことが多いというのも特徴ですね。私はこれを先ほどの『チル』と合わせて『チル&ミー(私)』と呼んでいます」
また、SNSでは国内だけではなく海外の情報もリアルタイムで入ってくることから、アメリカや韓国など外国からの影響を強く受けているのもZ世代の大きな特徴だという。
コミュニケーションを求めるZ世代
さらに、コロナ禍を経てZ世代に顕著になったもう一つの傾向があると原田氏は言う。それが「コミュニケーションを強く求める」ことだ。
「Z世代はコロナ禍によって、本来なら人間関係を構築したり、恋愛を経験したりするはずだった時期に、3年近く人との交流を断絶されてしまった。結果として、コミュニケーションに飢えている面があるのだと思います。私が教えている大学でも、飲みに誘うと喜んで来る学生が以前より明らかに増えました。少なくともあと数年は、この傾向は続くのではないでしょうか」
店やイベントでも、店員と一緒になって盛り上がれる飲食店など、「人」をキーにした場が人気を集めている。また、「友達を誘いやすいし、一緒にやることで絆も深まる」という発想からか、化粧品や食器を自分で作ったり、講師に教わりながら絵を描いたりといった「ものづくり体験」ができる店も人気だという。
「そう考えると、旅先でも現地の人たちとの交流があれば喜ばれるかもしれないですね。そんなふうに、今日お話ししたZ世代の特徴、傾向を、『Z世代が好む観光』を考える際の叩き台にして、生かしていただければと思います」と原田氏。「チル&ミー」をどう満たすか、「コミュニケーション」をどう提供するか。そこを入り口に、さまざまなアイデアが生まれてくるかもしれない。
構成・文/仲藤里美
(2024 10/11/12 Vol. 749)
原田曜平(はらだ ようへい)●芝浦工業大学デザイン工学部UXコース教授、信州大学特任教授、レイヤーズ・コンサルティング顧問、玉川大学非常勤講師、ワタナベエンターテインメント所属、BSテレビ東京番組審議会委員。慶應義塾大学商学部を卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーに就任し、世界中で若者研究および若者向けのマーケティングや商品開発を行った。博報堂を退社後は、マーケティングアナリストとして活動。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究およびマーケティング(調査、インサイト開発、商品・パッケージ開発、広告制作等)。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。「タイパ(タイムパフォーマンスの略)」「伊達マスク」という言葉の生みの親でもあり、さまざまな流行語を生み出している。