経営者セミナー

EXPO2025 大阪・関西万博を機に観光振興の全国展開を

3月27日(水)、会員ホテルを対象に帝国ホテル東京で経営者セミナーを開催しました。講師にお迎えしたのは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会担当局長の堺井啓公氏。開幕まで1年を切る大阪・関西万博の準備状況や、万博を機とする全国的な観光政策への期待が語られました。

世界が一つになるイベントへ、急ピッチで進む会場建設

来年4月、ついに2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催される。日本で万博が開催されるのは、2005年の「愛・地球博」(愛知)以来20年ぶりである。今年3月の時点で、161の国と地域および9つの国際機関が公式に参加表明をしている。想定される来場者数はピーク日では1日あたり約23万人。開催期間中には2820万人(うちインバウンド350万人)の来場が見込まれ、万博がもたらす全国的な経済効果にも期待が高まっている。

準備期間中には、コロナ禍や資材価格高騰により開催を危ぶむ声もあった。しかし、日本はホスト国として会場の安全面を確保しながら着実に準備を進めているとのこと。堺井氏は「コロナ禍で世界は分断されたが、大阪・関西万博で再び世界が一つになる」と、万博開催への意気込みを語った。

開催地の夢洲(ゆめしま)には、国内外のパビリオンが建ち並ぶ予定。日本からは、日本館をはじめ、NTTやパナソニック、電気事業連合会など13の企業や団体が出展する。また、映画作家の河瀨直美氏やメディアアーティストの落合陽一氏などのクリエーターがプロデュースする8つの「シグネチャーパビリオン」の建設も順調に進んでいる。建設の遅れが指摘されている一部の海外パビリオンについても国や博覧会協会が支援し、開幕に向けて準備が進められていることを堺井氏は強調した。

堺井啓公(さかい・よしまさ)氏2025年日本国際博覧会協会 担当局長(中小企業・地域連携)
堺井啓公(さかい・よしまさ)氏
2025年日本国際博覧会協会 担当局長(中小企業・地域連携)

未来社会を実現する技術が一堂に!

「今回の万博では、地球的課題に対する世界の取り組みの発信を大切にしています」と堺井氏。愛・地球博以降、万博では地球環境問題や都市問題、食料問題、人の交流から生まれる知恵など、世界的な課題がテーマとして掲げられてきた。今回の大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、いのちを見つめ直し、次世代技術やサービスを展示・体験する場になるという。

未来を体験できるのはパビリオンだけではない。万博会場全体を「未来社会のショーケース」に見立て、交通手段やエネルギー、通信、映像機器、イベントにおいても、未来社会を予見させる技術やサービスが実装されている。そのひとつが空飛ぶクルマであり、万博会場と会場外の発着場をつなぐ空の交通手段としての運航を目指している。

ほかにも、来場者の移動手段として、EVバスが会場内を走行する。また、言語選択をするだけでガイドの話す言葉を希望する言語に翻訳する「自動翻訳システム」、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)によってオンライン空間上に再現される「バーチャル会場」、水、空気、光、炎、映像、音楽を駆使して、生命の物語を壮大なスケールで描く「水と空気のスペクタルショー」など、実現が期待される新しい技術の数々が紹介される計画だ。

来社会ショーケース事業の全体フレーム(2023年9月14日時点)/堺井氏講演資料より
来社会ショーケース事業の全体フレーム(2023年9月14日時点)/堺井氏講演資料より

万博開催において重要な一翼を担うのは、万博を起点とする観光事業である。特にインバウンドでは数週間レベルの長期滞在が見込まれており、来場者が大阪以外の土地へも足を延ばす可能性が高い。そこで、万博協会では、観光情報や観光商品を発信するツールとして、⼤阪・関⻄万博公式観光ポータルサイト「Expo2025 Official Experiential Travel Guides」を構築した。

ポータルサイトは日本語のほか、英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語に対応。国内外の万博来場者に対して、万博のテーマに関連した⽇本各地での体験や過ごし⽅を提案し、さまざまな地域への訪問を促す。「万博会場の近くには関西国際空港があり、伊丹空港や神戸空港もある。鉄道も整備されている。そうした玄関口を活用して『万博+観光』を推進したい」と、堺井氏は万博を契機に全国へと広がる観光マーケットに期待を寄せる。

ホテルをはじめとする観光事業者等は、ポータルサイト上で各種ツアー商品を紹介するだけでなく、ワンストップで販売することも可能。掲載の基準は、万博のテーマと親和性のある商品や満⾜度の⾼い⾼付加価値商品、SDGsに関連した⼯夫が見られる商品など。「コミュニケーションを取りながらよりよく日本を知ってもらえるような、体験を目的とした商品は特に需要が高い」と堺井氏は言う。

「このポータルサイトを入口に日本各地への誘客が拡大すれば、オーバーツーリズムの緩和にもつながり、インバウンド旅行者の満足度も上がるものと思います」。そのためにも、ホテル業界には地域とタイアップして宿泊付きの魅力的な商品を多くつくってほしいと協力を呼びかけ、万博入場チケット販売の奨励金制度についても案内した。

堺井氏はまた、ホテルの利用客にも万博を周知してほしいとして、館内掲示用のポスターや動画などのPRツールも提供する準備が整っている、と話を続けた。関西では今、万博カラーに身を包んだラッピングバスや列車が走行し、開催に向けた機運も高まっている。「来春に向けて、まだ時間はあります。全国へと観光客を誘致する仕掛けづくりに一緒に取り組み、万博効果を何倍にも高めましょう」とホテルの参画を促し、この日の講演は幕を閉じた。

Expo2025 Official Experiential Travel Guides」の全体イメージ/堺井氏講演資料より
Expo2025 Official Experiential Travel Guides」の全体イメージ/堺井氏講演資料より

取材・文/鈴木有加
(2024 4/5/6 Vol. 747)